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ようやく悪魔から逃げ切れて安心したイロナは、竜にさらわれたアニチカの行方を捜し始めた。
オオカミに変身してアニチカの匂いをたどっていると、古い井戸があった。井戸ははるか地の底まで続いているらしい。イロナは井戸の底へと降りて、先へと進んだ。
どんどん地下世界を進んでいくと、彼女の前にガチョウの足の上で回転する城が現れた。イロナが「止まれ」と告げると回転が止まったので、城のなかへ入ってみた。
そこには、人間とは比べものにならぬほど美しい妖精の姫がいた。
妖精は言った。「ここは六つ首の竜が支配する城で、わたくしはその妻です。あなたはなぜこんな場所へ来てしまったのですか? もし夫に見つかったら、きっと丸呑みにされてしまうでしょう」
だが運悪く、出かけていた六つ首の竜が帰って来てしまった。イロナはとんぼ返りしてコウモリに変身し、天井に隠れた。
六つ首の竜は言った。「臭うぞ。これは魔女の臭いだ。儂の城に薄汚い魔女が忍び込んでいる」
あっさり見つかってしまったイロナは、丸呑みにされかけたが、その寸前に何とか六つ首の竜へ尋ねた。「教えて。わたしの友達をさらったスコロマンスの竜を見なかった?」
六つ首の竜はあやうくイロナを口から吐き出した。「魔女よ、貴様はヤツの敵か? だとすれば儂の同志に違いない。あれは竜の国の王子だが、横暴すぎて困っていたのだ。ヤツならここからさらに、東へ飛んで行ったぞ」
六つ首の竜と妖精に盛大なごちそうを振る舞われた上、餞別に櫛をもらってから、イロナは東へと向かって進み始めた。
しばらく進んでいくと、またガチョウの足の上で回転する城が現れた。イロナが「止まれ」と告げると回転が止まったので、城のなかへ入った。するとやはり、そこには美しい妖精の姫がいた。
「ここは十二つ首の竜が支配する城で、わたくしはその妻です。あなたはなぜこんな場所へ来てしまったのですか? もし夫に見つかりでもしたら、きっと丸呑みにされてしまうでしょう」
そこへ十二つ首の竜が帰って来たので、イロナは塵に変身してタンスの隙間に隠れた。
十二つ首の竜は言った。「臭うぞ。これは魔女の臭いだ。儂の城に薄汚い魔女が忍び込んでいる」
またもやすぐに見つかってしまったイロナは、丸呑みにされかけたが、その寸前に十二つ首の竜へと尋ねた。「教えて。わたしの友達をさらったスコロマンスの竜を見なかった?」
十二つ首の竜はあやうくイロナを口から吐き出した。「魔女よ、貴様はヤツの敵か? だとすれば儂の同志に違いない。あれは竜の国の王子だが、横暴すぎて困っていたのだ。ヤツならここからさらに、東へ飛んで行ったぞ」
またもごちそうを振る舞われた上、餞別に絹の織物をもらってから、イロナはふたたびアニチカのもとへと向かった。
するとまたもガチョウの足の上で回転する城が現れたので、イロナは「止まれ」と命じて城のなかへ入り、妖精に会った。
「ここは二十四つ首の竜が支配する城で、わたくしはその妻です。あなたはなぜこんな場所へ来てしまったのですか? もし夫に見つかりでもしたら、きっと丸呑みにされてしまうでしょう」
そこへちょうど、二十四つ首の竜が帰って来た。イロナは濃い霧を起こして、その姿をまぎれさせた。
二十四つ首の竜は言った。「臭うぞ。これは魔女の臭いだ。儂の城に薄汚い魔女が忍び込んでいる」
あっという間に見つかってしまったイロナは、丸呑みにされる寸前に二十四つ首の竜へと尋ねた。「教えて。わたしの友達をさらったスコロマンスの竜を見なかった?」
二十四つ首の竜はあやうくイロナを口から吐き出した。「魔女よ、貴様はヤツの敵か。だとすれば儂の同志に違いない。あれは竜の国の王子だが、横暴すぎて困っていたのだ。ヤツならここからさらに、東へ飛んで行ったぞ」
食べきれないほどのごちそうを振る舞われた上、餞別に干し肉をもらってから、イロナは先を急いだ。
そうして三日三晩歩き続けて、とうとうイロナはスコロマンスの竜が棲む城へとたどり着いた。
城内へ忍び込むと、美しく着飾ったアニチカと再会した。
「ああ、イロナ! あたしを助けに来てくれたのね。竜に無理やり結婚させられて、ずっとこの城で閉じ込められていたの」
「そうだったのね。かわいそうに。早くここから逃げるわよ」
ふたりはいっしょに城を抜け出し、馬で一目散に駆け出した。それに気づいた五本脚の馬が騒ぎ出したので、竜は厩へ駆けつけた。
「大変です。あなたの妻がイロナに連れ去られました」
「おのれイロナめ。今から追いつけるか?」
「ええ。食事を済ませて、昼寝してからでも余裕で間に合いますよ」
竜は言われたとおり食事と昼寝をしてから、五本脚の馬にまたがってふたりのあとを追いかけた。
そして、あっという間に追いつかれそうになったイロナは、あわてて六つ首の竜からもらった櫛を投げつけた。すると櫛の歯のように密生した森が竜の行く手をさえぎった。
「今のうちに早く逃げないと」
しかしまたすぐに追いつかれそうになったので、今度は十二つ首の竜からもらった絹の織物を投げつけると、絹のように流れる巨大な川が竜の行く手をさえぎった。
「今のうちに早く逃げないと」
しかしまたすぐに追いつかれそうになり、今度は二十四つ首の竜からもらった干し肉を投げつけると、竜は食べるので夢中になった。
「今のうちに早く逃げないと」
しかしとうとう、ふたりは竜に追いつかれてしまった。ふたたびアニチカを奪われてしまう。
竜は告げた。「イロナよ、スコロマンスの悪魔から解き放ってくれたことに免じて、一度だけは見逃してやろう。だがまた同じことをしたら、今度は八つ裂きにしてくれる」
それだけ言い残すと、竜はおびえるアニチカを連れて、つむじ風とともに消えてしまった。
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