そうして数年の歳月が流れ、イロナはさらに美しく成長した。

 魔女として学ぶべきことはすべて身に着け、そろそろ卒業が間近に迫ってきている。悪魔の副官に選ばれるのは誰なのか、みな気になり始めていたが、悪魔は事前に答えようとはしなかった。

 さて、悪魔は生徒たちに竜へ近づくことを禁じていたが、ある日イロナは好奇心を抑えきれなくなってしまった。悪魔からあらゆる動物の言葉を教わったため、彼女はもちろん竜とも会話ができる。

 竜は言った。「悪魔は俺に湖の水しか飲ませてくれない。だが水をいくら飲んだところで、ノドの渇きは癒えない」

「だったら、何を飲めばおまえの渇きは言えるの?」

「ぶどう酒だ。ぶどう酒が飲みたい」

 イロナは竜を憐れに思い、悪魔の城の奥にある蔵から、ぶどう酒の樽を転がしてきてやった。竜は美味しそうに飲んだ。

「まだだ。まだ飲み足りない。まだ俺のノドは渇いている」

 イロナはふたたび蔵へと戻り、ぶどう酒の樽を転がしてきた。竜はそれをひと息で飲み干してしまった。

「まだ飲み足りない。まだ俺のノドは渇いている」

 イロナはもう一度蔵からぶどう酒の樽を運ぼうとしたが、途中でアニチカに見つかってしまった。彼女もスコロマンスの生徒だ。アニチカは生徒たちのなかではイロナと特に仲がいい。

「ぶどう酒をどこへ持っていくの?」アニチカは尋ねた。

「竜に飲ませてあげるのよ」とイロナは答えた。

「なら、あたしも運ぶのを手伝ってあげるわ」

 そうしてふたりでいっしょに運んだぶどう酒を、竜に飲ませてやった。竜はとうとう飲み切れなくなった。

「ああ、もう十分だ。すっかりノドの渇きは癒えた。ありがとう。これでもう悪魔に従わなくてよくなった」

 すると竜はイロナを翼でたたきのめし、アニチカをさらって、つむじ風とともに空の彼方へ飛び去ってしまった。

「ああ、大変なことになってしまったわ。どうしましょう」

 竜を逃がしてしまったことがバレたら、怒り狂った悪魔に殺されてしまうだろう。とにもかくにも、イロナはその場でとんぼ返りするとオオカミに変身し、一目散に逃げた。

 三日三晩駆け続けて、スコロマンスから追っ手がついてきているか気になった。イロナは手近にあった墓から首を掘り起こし、かゆといっしょに二時間ばかり煮込んだ。そうして拳ほどの大きな泡が立ったころに、首が鍋のふちに座ってしゃべりはじめた。

「ヤーノシュ王の娘イロナよ。そなたはわれに何を問う?」

「教えて。悪魔はわたしを追ってきているかしら?」

「ああ、気をつけろ。もうすぐそこまで来ているぞ。おまえの残したオオカミの足跡を追ったのだ」

 それを聞いたイロナは即座にとんぼ返りをすると、今度はコウモリに変身し、空を飛んで逃げた。

 三日三晩飛び続けて、まだ追っ手がついてきているかどうか気になった。あいにく近くに墓がなかったので、しかたなく通りがかった旅人を襲って首をはね、かゆといっしょに煮込んだ。

「ヤーノシュ王の娘イロナよ。そなたはわれに何を問う?」

「教えて。悪魔はわたしをまだ追ってきているかしら?」

「ああ、気をつけろ。すぐそこまで来ているぞ。おまえがコウモリになって飛んでいるあいだ、空から落としたフンを追って来たのだ」

「教えて。どうすれば悪魔の追跡をまけるかしら」イロナはさらに首をかゆで煮込むと、首はこう教えてくれた。

「馬を使え。ただし、蹄鉄を前後逆に打ちつけ直すのだ。そうすれば足跡も逆になって、悪魔はおまえを見失い、追ってくれなくなる」

 首に教えられたとおり、イロナは旅人から奪った馬の蹄鉄を、逆向きに打ち直してから乗って逃げた。

 三日三晩駆け続けて、追っ手がついてきているか気になった。近くに墓が見つからなかったので、しかたなくイロナは通りすがった羊飼いの首をはね、かゆといっしょにまた煮込んだ。

「ヤーノシュ王の娘イロナよ。そなたはわれに何を問う?」

「教えて。悪魔はわたしを追ってきているかしら?」

「いいや。安心しろ。連中はおまえを見失った。逆向きの足跡にすっかり惑わされたのだ。もう追ってきてはいない」

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