やがて十二年の月日は過ぎたが、なかなか迎えは来なかった。その間、イロナはとても美しく成長していた。そのころにはヤーノシュ王もイロナをスッカリ愛してしまっていた。

 もしやこのままイロナを手放さずに済むのではないかと、ヤーノシュ王と王妃が思い始めた矢先、悪魔が竜にまたがって現れた。

「ヤーノシュ王よ。十二年前に約束したとおり、王女をいただくぞ。神に誓ったことを忘れたとは言わせぬ」

「もちろんだとも。神への誓いは絶対だ」

 しかしヤーノシュ王は、どうしてもわが子を手放したくなかったので、身代わりとして農夫の娘を差し出した。娘が城門の外へ出ると、あっという間につむじ風がさらってしまった。

 悪魔は農夫の娘を草原へと連れて行って、彼女に尋ねた。「この場所を見てどう思う? 答えてみよ」

 娘は答えた。「耕して畑にすれば、作物がたくさん収穫できるわ」

「そなたは王女ではないな。農夫の娘じゃ」

 怒り狂った悪魔は、農夫の娘を八つ裂きにして食べてしまうと、ふたたび城へと取って返した。

「ヤーノシュ王よ、よくもわらわをだましたな。しかしもう一度チャンスをやろう。いさぎよく王女をわたせ」

 けれども、やはりイロナを手放したくなかったヤーノシュ王は、またもや身代わりを立てることにした。今度は羊飼いの娘を差し出したのだ。娘が城門の外へ出ると、あっという間につむじ風がさらってしまった。

 悪魔は農夫の娘を草原へと連れて行って、彼女に尋ねた。「この場所を見てどう思う? 答えてみよ」

 娘は答えた。「羊を放牧するのにちょうどいいわ」

「そなたは王女ではないな。羊飼いの娘じゃ」

 怒り狂った悪魔は羊飼いの娘を八つ裂きにして食べてしまうと、みたび城へと取って返した。

「ヤーノシュ王よ、一度ならず二度までもわらわをだますとは。これが最後のチャンスじゃ。もしイロナ姫を差し出さなければ、エルデーイの地を嵐と雷が襲うぞ」

 さすがに観念したヤーノシュ王は、泣く泣くイロナを差し出した。王女が城門の外へ出ると、つむじ風がさらってしまった。

 悪魔はイロナを草原へと連れて行って、彼女に尋ねた。「この場所を見てどう思う? 答えてみよ」

 イロナは答えた。「遮蔽物がないから装甲馬車で敵軍の突撃を妨げて、鉄砲で一網打尽にするわ」

「間違いない。そなたこそ、バーンツィダからジュクハーイナまでその名を轟かせし、ヤーノシュ王の娘じゃ」

 彼女の答えに悪魔は満足し、イロナをいっしょに竜の背へ乗せて、スコロマンスへと連れ帰った。

 ナジセベン湖のほとりには、日の光が差さない真っ暗な地下洞窟があり、そこには悪魔の城がそびえている。そしてイロナをふくめた十人の少女たちが、城中に集められていた。

「よろこべ。わらわがそなたらを一人前の魔女に教育してやる。ただしこのスコロマンスを卒業できるのは九人じゃ。そなたらのうち一人だけはここに残り、副官としてわらわの仕事を手伝ってもらうぞ。その仕事とは竜を従え、エルデーイに嵐と雷を起こすことじゃ」

 悪魔はイロナたちに、洗礼をほどこした。悪魔式の洗礼は浄めるのではなく穢す。まずは額に爪でひっかき傷をつけ、それから黄金の杯に溜めた小便を頭へと注ぐ。そして仕上げに、乳房にもひっかき傷をつけた。名実ともに悪魔の生徒となっただ。

 スコロマンスの授業は真夜中におこなわれる。魔術は夜にしか使えないからだ。イロナたちは毎夜、さまざまな魔術をたたき込まれた。嵐や雷、霧を起こす方法。オオカミやコウモリ、さらには塵に変身する方法。凪か満潮のときにかぎり、水の流れを変える方法。死者の魂を使って、先行きを占う方法。そして下等な動物を従わせるため、彼らの言葉を学んだ。

 授業のあとは生徒たちに命じて、悪魔はおのれの全身すみずみまで香油を塗りたくらせる。空を飛ぶための下準備だ。雲の上の強い日差しと、吹きすさぶ風から肌を守ってくれる。

 竜はふだんナジセベン湖の底で眠っているが、悪魔が呼びかけると這い出してくる。悪魔はその背にまたがり、はるか空高くまで飛び上がって、このエルデーイのどこかに嵐を起こす。

「よいか。わらわが戻るまでに宿題を済ませておくのじゃぞ。もしできてなかったらオシオキじゃからな」

 洞窟の前には魔法の梨の木が生えている。悪魔が帰ってくるのを察知して、とても綺麗な花を咲かせるのだ。もちろん恭しく出迎えなければならない。

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