第2話魔術の街
屋上から見える景色に思わず唖然としてしまう。
目の前の景色には高層ビルなどなく8から10階程度の低いビル。そして、そのビル郡から少し離れた所には西洋の石造りの建築様式の塔や教会、屋敷がならんでいる。
これだけでも十分に自分の住んでいる街とは違うことがわかるが、最も目を惹かれたのは現代のほとんどの街に見られるはずの電車や車道・信号などの交通機関が病院の西側にのみ一切ない事だ。
「本当にどこなんだ…ここ……」
奇怪な街並みの上に広がる空はまだ少しだけ紺色を残して日の光が差し込んでいる。街並みの対比のように変わらない空だ。
数刻前まで雨が降った事が分かる湿った雲模様が普遍性を感じさせ、街との対の印象をさらに強くした。
***
病室に戻ると特段やるようなこともなく案の定、暇になった。
病室の窓から見える奇怪な外の景色を眺めて過ごすうちに自然とあくびが出てくる。
寝るか……
そう思い、ベッドで横になって天井を眺める。
確か、久喜は明日また誰かが来るだろうと言っていた。できる事なら明日来る人が久喜のようにいきなり攻撃してくるような事がないように、と願う。面倒ごとはこりごりだ、そう小さく呟くと布団を被る。
***
『やはり失敗したか……』
声が聞こえる。
若い声だ。若いはずなのにどこか年季を感じる奇妙な声だ。
『しかし、思わぬ副産物も生まれた。結果オーライということにしよう』
失敗したと言っていたのにどこか嬉しそうだ。
『まだ不完全ながら効果は十分。今後に期待だな』
急に視界が開ける。
見えたのは、空と海が続く何もない空間とそこにいる一人の人。いることはわかるのにモザイクがかかったように顔が見えない。
『初めまして次の「奇跡の担い手」。君には今までの歴代の担い手には無かった才能があるようだ。先代はどうにも負けたようだから少し残念だったが君を発見できただけ上出来だ』
彼、あるいは彼女が手を伸ばしてくる。
『君には「奇跡の担い手」たる資格が十分にある。この魔術の街で励むといい。……時間が来てしまったようだ。また、いつか会える事を期待しているよ』
その言葉を最後に景色が霞んでいく。
***
「んっ……」
ふと目が覚める。
夢を見ていたような気分だ。何かとても奇妙なモノにあったような。
そこで自分の頬を伝う熱いものに気づく。
不思議に思い部屋に備え付けられた鏡へ向かう。
覗き込んだ鏡に映ったのは昨日も見た赤と銀の混ざりあった髪に不気味なまでに言葉通りの色をした碧眼。そして、その目から流れる一筋の赤く透明の涙。思わず涙を拭おうと服で擦る。
「なんなんだよ……」
早朝から気味が悪い。
本当に自分の体は一体どうなっているのだろうと不安になる。
コンコンと、病室のドアがノックされる。
昨日、久喜が言っていた人が来たのだろう。
久喜のこともあり少しだけ身構えてドアに視線を向けると、スーツ姿の癖のある茶髪で二十代の半ばほどの人物がカバンを片手に入ってくる。
人間、第一印象が大事だとは言うが、この人は正直うさん臭さの塊というのが一番しっくりとくるような。
つまるところ、へらへらとした雰囲気の男だ。
「初めまして、
「どう、と聞かれても」
「わかりやすい答えだね。戸惑っているのがとても伝わってくる。久喜くんには聞いていたかな。僕がくるって」
シノギが手持ちのカバンを病室にある面会者用の椅子に置きながら聞く。
「代わりが来るということ以外は何も」
「なるほど、彼女らしい。君の境遇には同情するよ。目覚めたらあんな物騒な女の子に待たれてるんだから、災難に次ぐ災難だろう。あ、口が裂けても彼女には言わないでくれるかな?知られたら私の命が危ない。どうも私は彼女に嫌われてるみたいだからね。本当にうっかり命を奪われかねない」
笑いながら冗談のように言うと手持ち鞄の中から一つの封筒を出し、それを渡してくる。
「今日私が君に直接会いに来たのはこの書類を渡すためでね」
「中の書類を見ても?」
「ああ、勿論いいよ」
シノギに許可を得ると封筒をなるべく綺麗に開けて一枚の紙を出す。
「魔術学園への転校届け?」
確か昨日読んだ本にも名前が出て来ていた。なんでも魔術師を育成する学校なんだとか。
「なんでこれを俺に?」
「君は一昨日、塾から家への帰宅途中に何者かに襲われて背後から肺を刺されたそうだね?」
シノギの確かめの質問に頷く。
「その『何者か』が私の部下でね。昨日、久喜君から聞かされてはいるだろうが君には私の部下を殺した疑いがかけられている。それへの救済措置と私の部下が間違って君を襲ってしまったことへのせめてもの謝礼だ」
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