第6章「異形」

「立ち入り禁止区域」

翌日の朝の10時半。


スミ子とユウキは曽根崎の運転する

公用車の後ろに座っていた。


服装は曽根崎が途中寄った

スポーツショップで購入した安全靴に厚手の服。


公用車であるジムニーのハンドルを回しつつも、

スミ子たちと同じ厚手の服装をした曽根崎は

カーナビを確認しながら車を走らせる。


「本来であれば一般人であるスミ子くんを巻き込むわけにはいかないが、

 昨晩、委員会宛てにマザー・ヴンダーからメールが届いたんだ。

 今回の件に関して捜査にスミ子君を同伴するようにと。

 委員会の上層部は会議の結果、しぶしぶ承諾したということだ。」


スミ子の会社が地盤沈下で潰れた日から数えて三日。


委員会のパソコンや電話にはこれまで例を見ないほどの

空間の異常を知らせる通報が来ているということだった。


道路にいくつもの巨大な穴が開き、

走行中のバスが道の真ん中で蒸発し数時間後に別の場所に現れたり、

集合住宅地の地面に空間の異常を知らせる泡が

無数に湧き出していたりと現場は混乱しているらしい。


「委員会はこれらの変化は概ね鳥の仕業と見ているが、

 原因の調査をしようにも他の修理師がほとんどが出ずっぱりでね、

 もともとの人員が足りなかったのが今回あだとなった。

 今後は修理師の増加も視野に入れて対策を考えると上は言っていたよ。」


曽根崎はハンドルを切りながらも、

先日、子供として見つかった修理師の

その後についてもちらりと話した。


「今のところ彼らは委員会に属する保育施設に預けてあるが、

 戻す手段が見つからなくてね、今後は『18号室』に特別室を

 設けて監視つきで経過観察が行われていくことになるんだろうな。

 …まあ、かわいそうな話だが。」


車は山道に入り、

周囲の緑が濃くなっていく。


曽根崎の話では、

これからスミ子たちは坂口総合病院と呼ばれる

廃病院へと向かうということだった。


「君が持っていた鍵についていたプレートの文様。

 これは天城家由来のものだと委員会も睨んでいてね。

 一応、天城家にも電話でコンタクトを取ってみたが、

 代理人の弁護士以外、話をすることも難しくってね。

 プレートについては何も知らないの一点張りだったよ。」


また、プレート自体も何十年も前に製造されたものであり、

一連の空間事件に現在の天城家が関わっているという明確な

理由も証拠もないため調査ができないとも曽根崎は言った。


「まあ、空間委員会は警察のような強制捜査はできないからね。

 我々にできることが自然と限られてきてしまうのは仕方のない話だな。」


ただし、プレートが当時流布されていたという

坂下病院は現在紆余曲折を経て委員会の所有する土地となっており、

そのために病院での調査が可能になったということだった。


「坂下病院はもともと天城家の土地だったんだが、

 地盤沈下の件を機に委員会が所有権を買い取ったんだ。

 今も土地はそのままだが行って調べれば何かわかるかと思ってね。

 正直、何もなければお手上げの状態だな。」


そう言いつつも曽根崎は車を一旦脇に止め、

スミ子たちも一緒に降りるように言った。


「ここから先は、空間の影響を受けた場所だ。

 一般人には地盤沈下が起きた場所として立ち入り禁止にしてるが

 危険な場所である事には、今も変わりがない。」


外に出てスミ子は顔を上げる。

目の前にバリケード用の巨大な柵があった。


中央には『関係者以外立ち入り禁止』と

大きな文字の入った看板。


鎖の付いた南京錠がぶら下げられ、

容易に突破はできないように見えた。


「こちらとしては、監視カメラもつけたいんだけどね。

 そこまですると逆に好奇心を煽るかもしれないということで、

 却下されたんだよ。私はつける意味くらいあると思うけどね。」


そう言うと、曽根崎は看板を取り外し、

南京錠を開けて柵の一部をガラガラと横に引く。


「これで、車一台分は通れるはずだ。

 ここからしばらくは道が舗装されていない。

 大分揺れると思うが、我慢してくれ。」


そして、曽根崎は車に乗り込むと、

アスファルトの割れた路面の中、

車は再び走り出した…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る