放射線状に広がる記憶_05
そして彼は、あろうことか、私と彼の違いを語ったその口で。
その白変種を己の代わりに、己としてでもいいから、プラントに登録しておいてくれ、と、言ったのだ。
失望、というのはこんな感情のことを指すのだろうか。私はそんなことを思った。
彼が私にとって特別だったのは、誰もが慣れ切ったプラントの存在や、自己と他者の遺伝的同一性、形質的差異のあまりに少ないこと、それから、そのうちに宿る情動というものを恐らく誰よりも正しく認知して、受け入れ、己の言葉として語れるほどに消化すらしてしまっていたからだろう、と、その時気が付いた。
私は、人間の心変わりなど当然存在するべき前提として受け入れていて然るべきであったというのに、あまりにも、その事実を忘れてしまっていた。きっと彼は、今頃、どこかで笑っていることだろう。
もしも君がこの手記を読んでいたら。そんなことを、考えさえする。
メンタは、私の望んだ君は、いつも一貫した言葉を紡ぐ。
きっと、君はこんな話を読んだら笑うのだろう。
ばかみたいだ。生きているんだから、考え方や気持ちなんて毎日、毎秒変化するものだ。そんな風に笑って、人間という種である以前に生物であるのだということを、きっと私に思い知らせてくれるのだろう。遺伝子は不変であるかもしれないけれど、細胞単位ですら、人間は常に入れ替わっている。真に同一である存在なんてひとつもないのだと。
「この辺りは君の方がずっと詳しいんだろうけど、あえて言うよ。」
いつだか、陽射しの恩恵を受けた薄いカーテン越しの教室、窓際で、私に言ったように。または、それとまったく同じ言葉を繰り返して。
「例えば、アンドロイドと呼ばれていたモノだって、毎日給電されて動くのだからその身体を流れる陽子や中性子、電子のバランスは異なるはずだ。それを利用して動いていることを、代謝と呼んだっていいはずだ。同じものなんて何もないよ。」
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