3 「アターックッッ!!」

「アターックッッ!!」


 聖子の豪快なアタック。

 それはブロックを破って、相手コートに決まった。


「やったーっ!!優勝よーっ!!」


 クラスマッチ。


 我がクラスはスポーツ万能の聖子のおかげで、二年三年の強豪を破って、みごと優勝。

 あたしはと言うと、ウイッグが取れちゃまずいから…激しいスポーツは『病弱』という理由で回避している。

 …思い切りやりたい時もあるけど…仕方ないよね。



「聖子ー!!バレー部入ってよー!!」


 バレー部の子が、聖子に抱き着いて言ったけど。


「いや。あたしは帰宅部をまっとうするの」


 聖子は、タオル片手にきっぱり。


 あたしの親友…七生聖子ななおせいこは、七生財閥の次女。

 背が高くて頭が良くて、美人だし性格はさっぱりしててさわやかだし。

 常に…あたしの憧れ。


 あたしがシンガーになるって言った時も。


「じゃ、あたしも楽器しよっと」


 なんて…ギターを始めて。

 今は、ベーシストになっている。


 あたしは、聖子が大好き。

 …だからこそ、色んな事を話せないままでいる。

 インターナショナルスクールに行ってた理由も。

 桐生院家で浮いてしまってる理由も。

 夜九時まで家に帰れないっていう事も。


 なんだか、嫌われちゃいそうな気がして…



「知花、曲書いた?」


 聖子がタオルで顔を拭きながら小さな声で言った。


「…ごめん」


 あたしは、首をすくめる。


 千里と出逢ってからというもの…

 今まで曲作りにあてていた時間が、考える事に奪われた。

 …別に今考えなくてもいいとは思うのだけど…


 もし、本当に。

 あのマンションに住めるのなら…って。

 そんな妄想が始まると、譜面を前にしても何も進まないあたしがいる。



「それよりメンバー探さなくちゃねー。あたしたち、ずっと言うばっかりで何も動いてないもんなあ」



 あたしと聖子は、13歳の頃から二人で色んな曲をカバーして、聖子のリズムマシーンで合わせたりしたけど。

 やっぱり…そろそろオリジナルがしたい。

 ちゃんと、ドラムとかキーボード…全楽器隊揃って。


 で、メンバー集めようって言ってるんだけど…なかなかこれが難しい。



「でも、クラスでも少ないよね。バンドに興味ありそうな子って」


 あたしがつぶやくと。


「…男にしない?」


 聖子が、空を見つめて言った。


「え?」


「今までさ、女にこだわってたけど…こんな厳しい学校じゃ、なかなか見つかんないよ。男なら、あてがあるんだ」


「本当?」


「幼馴染がドラム叩いてる」


「幼馴染?」


「うん。ここの大学の一年なんだけど…ほら、Deep Redってバンド、知らない?」


「…名前は知ってる」


「そのギタリストの息子なんだけど」


「ギタリストの息子がドラマー?」


「そ。いい奴よ。あいつもバンド組みたいらしいけど…メンバー揃えたかな。聞いてみるから、一度会わない?」


「そうだね…男の人の方が見つかる確率は高いかも…」


 なぜかと言うと…


 あたしと聖子が作ってる曲は、昔でこそポップだったけど。

 気が付いたら、かなりハードロックになってしまってる。


 スクールにいた頃は、同年代の女の子もハードロックを聴いてた。

 だけど桜花では…あまりそう言った話を聞かない。

 休憩時間に耳に入って来る音楽の話は、アイドルが主だ。



「男の方がさ、何かと力持ちだし」


 聖子が笑いながら言って、あたしも小さく笑う。


「そうだね…あたしも音楽屋でいろいろ探り入れてみようかな」


 音楽屋とは、行き着けの楽器屋さん。

 あそこでは、楽器の試し弾きをしてる人も多いし…もしかしたらいい人が見つかるかも。


 今まで同年代の女子って決めて探してたから、全然見つからなかったけど…

 なんとなく、前に進めそうな気がしてきた。


 早速帰りに音楽屋に寄ってみよう。

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