Prologue-2.4


 青年の言葉に、シロガネは呆れた。

 もう少し考えていう言葉があるだろうが、と。


「……何者かって聞かれて、普通は名前や所属の組織答えないのか?」

「そういうものなのか?」


 青年は口に手を当て、考えているようだ。


 呆気にとられ、溜息をつく。こうしている間にもすぐに倒してやりたい。

だといっても、腹部の激痛で動くことが出来ない。

 詠唱を唱えることは許されないだろうから、怪我を癒すことも出来ない。


 青年は腕を組みし、仁王立ちでシロガネを見下ろしながら言った。


「私はメタトロニオス王国宗教軍第四番隊隊長、ガルヴァンだ」

「……隊長かよ…」

涙の偽創者レオルフィーのシロガネ。オルフィス教上層部の指示により、確保させてもらう」


 ガルヴァンはシロガネに近づき、右手で左腕を掴んだ。


「おい、隊長様。俺の左手は掴むなって言われてないか?」

「ん?そのような指示は、覚えがないが」

「そう。なら覚えておきなよ」


 シロガネはガルヴァンの右腕を掴む。


偽創者レオルフィーの左手には気を付けるってな!」


 これほどの好機はないだろう。気を付けるべき左手を、相手から掴んできたのだ。


 掴んだガルヴァンの右腕に炎が纏う。

 意味を理解したガルヴァンは右手を離すもシロガネは握った左手をそのまま上から下へ振り下げる。

 たちまちガルヴァンの右腕は燃え上がる。


 焦げた匂いと煙が立ちこめる中、後方に退けながら詠唱を唱えて怪我を癒す。


「シロガネ、貴様!」


 ガルヴァンが左手に刀を構える。刀から炎が纏い、それをシロガネの方に向かって振り下ろす。

 導火線に火がついたかのように、燃え盛る炎は一直線にシロガネに向かう。


 早さもあったが魔力ルナートの予測が出来たため、横に動くことによってそれは幸いにも避けられ、建物の壁に当たり、その衝撃で壁にヒビが入った。


 透明な板は衝撃と熱で地割れのように割れ、裂け目から間欠泉のように水がいきよいよく吹き上げる。


「……そうか、この手があったか!」


 シロガネが呟き、左手を地面に叩き付ける。左手から前方に魔法陣が現れ、赤い輝きを放つ。

 すると地面が歪み、曲がり、やがて円を切り取ったように魔法陣の部分の地面は、術が発動した時の、特徴的な金属音を除いては音もなく消滅した。


 勿論その下は水。シロガネは更に詠唱を唱え、発動させる。

 術はシロガネを包み、吸収されるように消えていった。


「じゃーな、ガルヴァン隊長様よ。面倒だから、二度と面見せんなよ」


 目を丸くするガルヴァンを余所に、シロガネは暗い水の中に飛び込んだ。

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