Prologue-2.3


 シロガネは何かが風を切る音に気づき、その原因を探った。

 それは丸いニクスを背に、白い刀身を振り上げる赤茶の髪の青年だった。

 それも、異様な早さでこちらに向かってくる。


 それを避けようと顔を庇って後ろに下がる。

 青年の刀は逃れられたものの、その際に起きた衝撃波でシロガネは吹き飛ばされる。


 いや、あれは衝撃波ではない。

 魔力ルナートを使った術だ。


 体勢を立て直し、相手を視ようとするも青年はすぐに距離を縮め刀を振る。

 すかさず膝を曲げ、その一撃を避けると左手で空間を歪め槍を取り出し振るう。

 長い槍だが、敵は後方に瞬時に下がり、当たらなかった。


 驚異的な運動神経に目を疑ってしまう。

 だがおかげで距離も生まれた。


 やはり宗教軍の者だが位が高いのか、いつも見ている軍服の形とは違う。上着は長く、膝下まであり、動きやすさの為か、袖がないかわりにピタリとしたアームカバーを着けている。

 顔を見上げると、一番先に目についたのは赤い虹彩。


 こいつもか、と声に出さず呟く。

 まるであの金髪のオルフィス教聖職者……アルバのようだった。


 魔力ルナートを視ると、様々な色の粒子が飛び交っている。

 豊富に魔力ルナートをもっていて、なおかつ様々な属性を扱えるのだろう。


 気になるのは……あの白い刀だ。

 あれ自身にも涙の信託者オルクルが溢れている。

 魔力石セレークレスタがはめ込まれている様子はない。

 特殊な武器なのだろうが、何の為かが分からない分、恐ろしい。


 青年はその刀を構え、こちらに走り出した。

 剣先を捉え、槍で迎え、金属音が鳴り響く。

 すぐさま刀を戻し、また別な所を狙われるも何とか防ぐ。


 それを絶え間なく続けられ、距離をとろうと後ろに下がっても追われるため上手く槍が振るえない。


 そして、おかしなことに気付く。

 魔力ルナートを豊富に持つ涙の信託者オルクルにも関わらず、術を使ってこない。


 体術だけではこちらも不利な点が多い。

 だからといって術を唱えることも、ましてや左手から発動する隙すらもない。


 それを狙っているのだろうか。術で勝ち目がない分、力業なのか。


 やがて額から頬にかけて斬りつけられた。


「ぐあぁ!」


 血で片目が塞がれる。

 刀身が右腕のすぐそばまで迫るのが見えるも避けられない。

 刀は手首、続けて肩の辺りに当たる。


 耳に残る金属音が鳴り響く。


 青年は首を傾げるも、すぐに腹部を狙って刀を水平に振る。

 シロガネは避けきれず、血を流しながらドッと倒れた。


 刀に付いた血を振り払い、鞘に入れる。


「おいおい……こんな奴、情報屋からも聞いてねぇぞ……」


 舌打ち混じりに小言を言ったつもりだが、丸聞こえだったらしく、青年は言う。


「それは残念だったな」

「……テメェは一体何者だよ」


 シロガネが右腕を下にするように、横になりながら言う。


「答える必要性もないが……というより、何者という質問では何を答えるべきかよく分からないのだが」

「……はぁ?」

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