魔術の都-3
オーウェルに否定された太った兵は、先程よりも多い汗をかきながら言う。
「そ、そりゃデキウス殿とは違うッスよ!デキウス殿は文武両道で軍学校でトップの成績を出し続けたそれはそれはすごい人ッス!!確かに自分は戦闘ランクはEでしたけどもッス!」
「……最低ランクじゃないか…Eって」
細い彼が、弱々しく呟く。そこでリシアはようやく思い出した。
「……ネッケル先輩!ネッケル・モア先輩じゃないですか!?」
「やあ久しぶりだね、リシアース君。今は国立学校だっけ?」
「はい。そちらも御卒業と御入隊おめでとうございます」
リシアは左上腕を見せるように左拳を右肩に置き、一礼をする。
「おいリシアース!俺様は無視か!!」
「……何が?」
「てんめぇ!最低限、元同期に最高級アルム産の牛肉持って卒業祝いなり、入隊祝いなりしやがれよ!!」
オーウェルがぎゃあぎゃあ騒ぐのを余所に、ネッケルは話す。
「えっと…この方がオーウェル・ジード・デキウス君……は知ってるよね。その隣がジェームズ・コーク君。立派な貴族の息子さんなんだ」
「せいぜい僕たちを見上げて崇めて頑張るッス、平民!」
ジェームスは、上がらない腕を無理矢理肩に乗せながら言う。リシアは呆れ目に見ながら自己紹介をする。
「リシアース・エンデです……先輩もまた大変な部隊に入りましたね」
「まぁ、特に戦闘ランクが高くない人はまず、首都巡回部隊からだからさ…」
「そういい意味じゃ…いいや」
話を変え、リシアが銀髪の少年について問おうとした時、ジェームズはハッと思い出したように言った。
「エンデぇ!?もしかして昨年、事件を起こして軍学校を退学したリシアース・エンデッスか!?」
軍学校を卒業出来ず、退学する者は多数いる。
理由は簡単だ。特訓についていけないとか、勉強の両立が出来ないとか、上下関係、貴族と平民の差別……そういったものが多い。
だが退学する理由の中でも最低極まりないのが、事件を起こした、というもの。
規律の厳しい軍学校は事件を起こした生徒はすぐに切り捨てる。
「――……あぁ、まあそうだけど」
「ヒィ!戦闘ランクAまでとり、なおかつ勉学の理数教科はSまで取ったあのッスか!?」
ちなみにいうと、他の教科はB、つまり標準より上。またはそれ以下だ。
「……まぁ」
「それなのに退学って…一体どんなすごい事件だったんッスか!?」
「………」
コイツは一年前の出来事を、事件という名としてしか知らないのか。
いや、周りがリシアースの名前を言いってるのにも関わらず、名乗るまでそいつだと気付かない程の鈍感だ。もしかしたら本当に知らないのかもしれない。
知らないなら知らないで、そのまま陰口のように言われる方がいいのだが。
「……ジェームズ君、あまり触れないであげてよ……リシアース君にとっても、辛い出来事だったんだよ?」
「なんッスかそれ!逆に気になるッスよ!!」
ジェームスが言うと、オーウェルがその事を煽るように言う。
「本当に辛かったらノコノコ平気で国立学校なんかにいくかぁ?」
「そうッス!そうッス!!」
「――…あのさぁ……」
リシアが切り出そうとした時、裏路地の方から少年の悲鳴のような、いや断末魔のような叫びが聞こえた。
スラム街の人達の食物の取り合いか、または愉快犯による通り魔か。
「ケッ、タイミングいいな。首都巡回部隊第五隊隊員出撃だ!」
「はい!」
「了解ッス!!」
そういうと三人は声のした方へ走って行ってしまった。
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