魔術の都-2
ドンッと、人と人がぶつかった。
薄暗い路地。一方は走っていて一方は止まっていた。
走っていた方はかなりスピードをつけていたので、衝撃で後ろに倒れ込んだ。止まっていた方も、バランスは崩しはしたが倒れはしなかった。
止まっていた方は銀の長い髪を揺らし、振り向く。話していたと思わしき赤髪の人物はすっと宙に溶け、姿を消す。
止まっていた方は、鋭く、海を思わせるような深い青い目は、走ってきた者を『視る』
古びてボロボロな服、顔や体は泥や埃で汚れており、貧しい暮らしをしているのは明らかだ。近くに果物が何個か転がっている。
その、走ってきた者には見合わないほど、綺麗で美味しそうな実だ。
他。白と黒、緑や橙といった粒子が彼の身体から溢れ出ているのも見えた。
「おい。お前」
「なんだよ」
銀髪の少年の言葉に、果物を服の中にいれながら貧民の少年は言った。
「お前、
「は?だから何さ。証拠は?
いいや、といって銀髪の少年は首を振る。
「メタトロニオス王国だったらならない…犯罪を犯していなければな。それと、お前の持つ属性は"風"と"雷"。これを使って悪さしただろ」
「さっきから何なの?頭おかしくて変なのでも見えんの?」
「ま、あながち間違ってはいないな」
警戒と軽蔑の目でジッと見てくる貧民の少年の身体にはやはり粒子が溢れ出ている。
この能力があるのに、盗むのは果物三つ程度。何故それ以上大きな物を狙わないのか。
簡単に考えれば。
走ることしか、脳がないからだろう。
しばらくその状態が続いたが、白銀の髪の少年がなにかを言おうと口を開きかけた瞬間、少年は古びた服を翻し走り出した。
しかし、少年は転んだ。
不自然に体を地面の上で大の字に広げ、手も足も動かさずに、いや動かせずにいた。
「なっ……何なんだ!?」
自然に転んだのではないのは明らかだった。こんな現象を引き起こしたのは、ただ一人。
「おい、勝手に行くなよ」
少年に一歩一歩ゆっくりと銀の髪を揺らしながら近づく。
「まだ話は終わってないんだ」
歩きながら何も無い空間から左手で槍を引き抜く。
「な……!?」
「聞いたか聞かれたか……そこも問題だけど、まずお前では使い物にならないだろうよ。奴らに知られる前に、悪いけど」
槍を振り上げて、冷酷に。
―――――――――――――――――――
ドンッと、人と人がぶつかった。
賑やかな路地。一方は余所をみて歩き一方も歩いていた。両者とも軽い衝撃だったので倒れはしなかった。
悪い、とリシアは言って向こうへと行こうとしたが。
「この、『俺様』にぶつかっておいて悪い、だけだあ?随分偉くなりやがってリシアースよぉ!」
「……普通の反応だろうが、オーウェル」
振り返ってみれば、青を基調としたメタトロニオス王国軍の軍服を着た男性が三人もいた。
リシアに話し掛けた真ん中の男が一番背が低く、ほとんどリシアと同じ位だ。
ケッと唾を吐くように言い捨て、生意気そうな目で此方を睨む。
「由緒正しきデキウス家の、オーウェル・ジード・デキウス様に謝るのであれば跪いて靴を舐めるのが常識だ!」
左側の、顔の周りにも過剰に脂肪をつけ、こんなヤツでも軍学校卒業できるんだなあ、と思ってしまわざるをおえない者が「そうッス!そうッス!!」とオーウェルに同意する。
だが右側の、明らかに二人とは違う雰囲気の、ヒョロリと背の高い男性が怯えながらも二人に対して言う。
「そ、それは…違うんじゃ……ないかな?」
「あ゛ぁ゛?平民が口挟むんじゃねぇよ!」
オーウェルの口の悪さは相変わらず酷いものだな、とリシアは思っていたのだが、ふと右側の人の声が記憶に引っかかる。
「そ、そんな…平民とか貴族とか、差別だよ…」
「差別じゃないッス!列記とした、正式な区分ッス!!それがこの国ッス!仕方のないことなんスよ、平民!」
太った奴が細い方に言うと、オーウェルが皮肉るように言う。
「ケッ、テメェみたいな実力のねぇコネで卒業したヤツが偉そうに言ってんじゃねぇよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます