黄金の聖職者-5
「すみません。待たせる為にはこうでもしないと、と思いましてね」
振り向けば、彼は先程とかわらず、噴水に腰掛けながら微笑んで言った。
「あなたは
「まあ、そうですが」
「しかも、最も強い属性はナンバリングーゼロの……"時空"」
リシアは苦笑いを浮かべ、彼に近づいた。
「何で分かるんですか?」
「いえ、私の身体が特殊なものでしてね」
細めていた目を開き、まともに聖職者の瞳を見た。
例えるなら血のように、そこにあるべきには不釣り合いな程、真っ赤だ。
白い部分と赤い部分が交互に並び、鮮やかだが不気味な紅白を生み出している。
「……目が………」
この世界で赤い目というのは珍しい。というより、本当に滅多にいないだろう。リシア自身、見るのは彼が初めてだ。
「それより、本題に入りますね。頼みたい事があるのです。国立学校の授業は受けられないかもしれませんが……」
この人はよく見ている。この肩を外して着ている上着を国立学校の制服と見破った。
リシアはただ、講義があるといっただけだ。
私立学校も、この都にはあるのに。
「……いいですよ。どうせ今日は朝からエンの送り迎えで授業に出てないですし、エンの御礼もありますからね」
「弟思いですね。御礼を更に返してくるとは」
ふふ、と笑った後、赤目の聖職者様は言った。
「長い銀色の髪の少年を捜してくれませんか?」
―――――――――――――――――――
「長い髪で銀色?ようは白髪で、しかも少年?……を捜してくれませんか………」
彼の言葉をそのまま返そうかと思ったが、考えが入ってグチャグチャになった。
「他に特徴、性別は?それにその人は一体…?」
「性別は男性ですよ。少年なんですから」
リシアの問に、青年は微笑む。それは、馬鹿にしたようなものではなく、幼児の間違いを微笑ましく指摘するようで、何だか気恥ずかしい。
そういえば少年だった。何となく、夜に衛星ニクスに照らされ、妖しい雰囲気をもつ美しい女性を連想してしまったのだ。
「他に特徴……は、青い目に色白で身長は大体180cmより下。少なくともリシアースさんよりは高いです。外見の年齢も、少し高いか同じくらいでしょう」
青年は続けて言う。
「オルフィス教が重要人物として捜しているのです。彼がこの都に入ったという情報もあり、私はここに来ました」
「一人でですか?」
はい、と明瞭に青年はリシアの問に答える。
「複数でいると彼に気付かれて、他の街に行ってしまいますから。一人なら、ただ布教しに来たくらいにしか見られません。ですが探しにくいというのも確かです」
「だから、オルフィス教の人間ではないただの学生に頼んで捜してもらうと」
「物分かりがよろしくて」
だが、疑問は絶えない。次々と頭に浮かんでは焦燥に駆られる。元々リシアは興味のあることには徹底的に調べ上げたくなる性格なのだ。
どうやら、この話に興味が湧いてきたらしい。
「で、何故自分にそれを?」
「
「オルフィス教は何故彼を捜してるんですか?」
「重要人物だからです。」
「手がかりは?」
「何とも…」
リシアの質問の嵐はとめどなく溢れ、それだけで日が暮れそうだった。
「……嫌でしたら、断っても大丈夫ですよ………」
「へ?そういうわけではないですよ!」
だが、聖職者様といえど、数多い質問はあまりに失礼だった。
「すみません……つい、興味深くなってしまい………」
「いえ、構いません。他にありますか?」
嗚呼、本当に黄金の聖職者様。怒りもしなければ咎めもしない。
申し訳なく、だが言葉に甘えて最後の質問をした。
「……では、聖職者様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?場合によっては必要かな………と」
どんな場合だよと内心に突っ込みをいれる。殆ど、これも興味からきていたことに後から気づいた。
それでも彼は、どこか懐かしむように微笑みを浮かべ、言った。
「……そうですね、アルバです」
「……アルバ。どっかの古代の言葉で
「そうです」
「ではアルバさんに敬意を込め、敬礼!」
リシアは左手に拳を作り、右肩に乗せる。出来るだけ、左の二の腕が見えるように肘を右側に向け、一方右腕は脇でピンと伸ばす。
足はひらかずに、直線の棒のように立て、爪先はアルバの方向に。
その姿勢をつくったら今度は上半身を少し傾ける。これがメタトロニオス王国の正式な敬意の表し方だ。
「り、リシアースさん!?」
「あ、迷惑でしたか……?自分の感謝の表しだったんですが………」
恥と照れくささですぐさまリシアはその姿勢を崩すとアルバに背を向け、言った。
「話長くてすみませんでした!じゃっ、ちょこちょこ捜してみます!」
どこか逃げるように去っていくリシアを、血のように赤い目の青年は微笑んで見ていた。
執筆日 2011年8月15日
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