黄金の聖職者-4
「すみません。助かりました」
聖職者の彼は噴水の縁に腰掛けながら言った。
目の見えない少年を治癒し、予定では更に術を使おうとしていたらしいが流石に疲れてそれどころではないらしい。
リシアとエンは手分けして人々を解散させた。
まだ見たい、とゴネる人もいれば、
広場には今、聖職者とリシアとエン、それと道を歩く人々しかいない。
「いえ……それより、あの術を見せるパフォーマンスは一体?」
「女神様の神託です」
「うーん……そういう解答を望んだわけでは………」
気になった質問をリシアはしてみたのだが、流石は真の聖職者だ。
「それより、赤髪の貴方」
「あ、オレはエルヴァン・エンデです。こちらは姉のリシアース」
「失礼しました。ではエルヴァンさん、腕を出して下さいませんか?」
エンは戸惑った顔でどうするべきかと目でリシアを見る。リシアは悩むようにしばらく無言だったが、出してやれ、と手振りでいった。
エンはどちらの腕か迷い、とりあえず右腕を出そうとしたが、聖職者は立ち上がって左腕を掴んだ。エンは困惑したが暴れるようなことはせず、そのままにした。
たちまち、エンの腕から光が溢れる。
先ほどよりは眩しさはなく、温かな陽光のようだ。光は腕を中心に胴や脚のところにまで伸びる。
魔物に攻撃されて怪我をした部分だ。
「はい、これで大丈夫でしょう」
黄金の聖職者は腕を離す。確かめるように、エンは伸ばしたり曲げたりして左腕を動かした。
「ホントだ。痛くない」
「すみません。帰って手当てしようとは思っていたんですが…ありがとうございます」
「いえ。ささやかな御礼です」
聖職者はもう一度同じところに座る。
「この後はどうするんですか?」
「はい。こちらのスラム街の方でもう一度聖書の朗読と術の治療をしようかと」
エノクの都でも、貧富の差は大きい。
失業した者、親を失った子、落ちぶれた貴族といった人々が家すらも失い、やがてスラム街を形成した。
元々、そのような人々の為の区はない。だが一般住居、商店街の間という隙間に人々が集まり、スラム街を作った。建物が多い為、普段は人の目に止まり辛く、入れば物乞いの連続だ。
積極的に入り、聖書の朗読とは。オルフィス教も楽ではないのだなと思う。
「じゃあオレたちに出来ることは何かありませんか?お手伝いします!」
エンの燃えたぎる正義感に火が点いたか、拳をつくって言った。
「いえ、お気持ちだけ受け取っておきます。それより、エルヴァンさんはゆっくりお休みください。軍学校も大変だったでしょう?」
聖職者は、エンの着ている制服で大体の事は理解しているらしい。
「そうだな、エン。レシアが待ってるんだし、帰るぞ」
「姉貴まで!レー姉のことだからどうせその辺でいつもの人達と井戸端会議決行中だよ!」
「あ、そういえばそろそれ最終講義始まるかも」
「どうせサボんだろ!」
文句を言いながらも、渋々ながらエンは帰路を歩きだした。
リシアもそれに続こうとしたが、キンッとした甲高い金属が聞こえ、立ち止まる。
自分にしか聞こえないのか、エンは先に歩いて人混みに紛れた。
「…何か御用ですか?聖職者様」
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