黄金の聖職者-3
彼の言葉に、人々は戸惑った。
――本当に術を使う気か?
――失敗したらどうするのかしら。
――あの聖職者は本当にあの
言葉は言葉を混ぜ合わせ、疑問の声が口という口から溢れるほど出る。
そんな中、涼しげな
子供は母の手を繋いで離さない。母がグイグイと歩くのに引っ張られ、躓き、転びそうになりながらもやっとの思いで青年の前に立った。
もしかしたら、目が見えないのだろうか。
「黄金の聖職者様、この子は目の見えなくなる病気にかかってしまい、病院にも断られる状態です。もう既に、光を失ってしまいました。どうか、この子にもう一度光を見せて下さいませんか!?」
いかにも
とはいえ、この属性術は
だが、病院で断られる程重症な患者の目を治すことは、強大な
エンを連れて行っても良かっただろう、とリシアは今更ながらに考えた。エンも、我慢しているが怪我人だ。
それに、夢もない酷い話だが、聖職者にとっての始まりのハードルとしては適任だったろう。
「――……分かりました。出来ることを尽くしましょう」
長い沈黙の末、聖職者は返事をした。
彼も、コレは難しいとは理解しているらしい。
持っていた聖書をハンドベルの横に置き、両手を少年の見えない目の前に突き出す。浮かべていた微笑みすらを消し、目を閉じて集中をする。
誰もが静かに、黙って金の髪の聖職者を見つめている。
聖職者は詠唱を唱える。
「―――彼の者の光なき眼に、再び光の園を見せたまえ……」
彼の手に光が現れ、少年の目を包んでいく。その光は光源のように明るく、眩しい。
かなりの量の
「くっ………」
しばらくして彼の
どちらかわからないが、光が途絶えた瞬間、聖職者は膝を附いた。
静かだったのが、長い無音になる。
むせたような咳をして、聖職者の荒い息遣いが聞こえるようになって、人々はハッとした。
少年はどうなったのだろうか。
光が見えなかった彼は何度も瞬きをして、自分の手を見ていた。やがて首を動かし辺りを見渡す。
「母さん!僕、見えるよ!青い空も、白い雲も、サンサンに輝くヘメラ様も、母さんの顔も!!」
「なんてこと…本当に、本当に奇跡が起きたのね!」
奇跡を起こしてクタクタになっている聖職者様を余所に、親子二人は抱き合い、喜びに満ち溢れている。
ただ見ているのも何なので、リシアはエンと共に聖職者に近づき手を伸ばした。
「……すみません…」
右手をエンに、左手をリシアに乗せ、彼はなんとか立ち上がった。
「…だっ、大丈夫ですか?」
たまらずにエンが言った。彼は疲れの抜けない笑みを浮かべ、頷く。
「本当に
「奇跡の聖職者、黄金の聖職者よ!!」
人々は黄金の聖職者に向け、讃美の言葉をかけた。
かけまくって正直、何を言っているかよく理解出来ない。
あの親子も、彼に向けて何度も何度も頭を下げ、感謝の言葉を口にする。
「いえ、彼の生命力と、女神オルフィスの力があってこそです。讃えましょう、彼の命を。感謝しましょう、女神様に」
なるほど、確かに真の聖職者だ。
怒りも自惚れもせず、こんなときも信仰する女神様のことを忘れてはいない。
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