黄金の聖職者-2


―――遥か昔、世界アールマティに一つの星が落ちました。


 やはり、オルフィス教の聖書の一説だ。


―――星は大地を砕き、多様な生命を死なせました。


「姉貴、これって一体?」


 歩きながらエンはリシアに尋ねた。


―――それを嘆いた女神オルフィスは人の生き残りであった初代オリートと共に世界を再生させました。


「……さぁ?もしかしたらこれも魔力を使った術の一つかもな」


―――しかし女神オルフィスは力を使い果たし、眠りにつきました。


「……だとしたら属性はなんだろうな……"音"?」


 頭を捻り、ようやく思いついた単語をリシアは口に出してみる。


―――その際、女神オルフィスは初代に告げました。

「世界は再生した。だが人々の争いで大地は死ぬだろう。私の復活を望め。私を目覚めさせよ。さすれば私はまた世界を救おう」


「へー、そんなのもあるんだ」


―――また、続けて言いました。

「君に、私の力を授けよう。私の変わりに世界を見守ってくれ」


「確かあったはず。炎属性の進化型だ、多分」


――初代オリートは女神オルフィスから力を授かり今も世界を見守っています。


「そんなのも使うなんて……流石は涙の信託者オルクルの力を女神様からの贈り物と考える連中だなあ」


 口角を上げ、エンが言う。


―それはずっと昔から、そして未来も。


「ほら、見えてきた」


 リシアは広場に集まっている人集りを指差した言った。


「女神オルフィスが目覚めるその日まで」


――――――――――――――――――


 広場の中心には噴水があり、先程の魔力ルナートでできた川と同じで、魔晶器でつくられた水が吹き上がっている。そこの縁に腰を掛けている聖職者らしき青年がいた。


 純白で、服の端には青い縁取りがしてあり、ゆったりとした着のこなしをしている。

 金色の髪は流れる程あり、肩に届くだろう長さだ。膝の上に聖書を置き、右手側にはハンドベル。左足の近くに黒い革製の鞄があった。


 彼は聖書を閉じるとハンドベルに手を伸ばし


―――チリン チリン

―――チリン チリン


 二回に分けて、二度鳴らした。頭に直接響くような、美しい音色だ。


「ハンドベルの合図って色々意味があるんだっけ?姉貴。この合図、何か知ってる?」

「ええっと……初めの二回が女神様。次の二回が……お見せ下さい?」

「……なにそれ」


 エンの質問に、リシアはお手上げを示す。

 青年は聖書を片手に、スッと立ち上がると微笑みながらこう言った。


「信託が降りました。苦しんでいる民よ、私の前にどうぞお立ち下さい。女神様の力より、治癒させて頂きます」


 オルフィス教とは、太古に降臨した女神オルフィスと、共に世界を再生させた少年、初代オリートを讃える宗教だ。

 オルフィスが初代に与えた力こそ、涙の信託者オルクルの力だと信じ、その力を女神様からの贈り物と言っている。


 一時期は迫害の対象にもなったが、メタトロニオス王国の国教となったことにより、権力も名声も得て世界一の大宗教となった。

 故に、オルフィス教は王都エノクの地で定期的に聖書を朗読し、オルフィスと初代の素晴らしさ、そして涙の神託者の奇跡話をしたたりする。


 それが、主なのだが。


「実際に涙の信託者オルクルの術を見せるなんて、聞いたことがないな」


 それ以前に彼は本当に涙の神託者なのかと疑いたくなる。涙の信託者オルクルは、外見は普通の人と変わらない。一ヶ所を除いては。


 最も心臓に近い腕に、魔紋章マラークと呼ばれる魔法陣がある。正式な証明は得られていないが、涙の信託者オルクルはそこから魔力ルナートを供給しているとのことだ。

 そのため、左腕を見せれば、その人が本当に涙の神託者なのかが分かる。

 同時に、それでしか普通の人は見分けがつかない。


 最近、涙の信託者オルクルは動かなくとも体内を巡る魔力が少しでも体外に放たれ、辺りに漂っているのが分かり、機械を利用して判断出来るようにはなった。

 だが一般人が簡単に手に入れられる値段ではない。

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