Prologue-1.2
「………き。アーネーキ!」
「……ん?」
施設から少し離れた森の所。
木に寄りかかっているのは、一見少年に見える少女。紺の髪は顔の右半分を覆うも他は短めで肩につくかも怪しい。
白い上着は肩から外し、裏地の暗い青がはっきり分かり、右の腰には二振りの、長くはない剣を差している。
彼女、リシアース・エンデは空を仰ぐのを止め、近くにいた少年を見た。
一部、細い尻尾のように束ねている赤茶の髪に、きっちり鞘に収まった刀を左手に持つ。おろしたての青い軍学校の服に身を包んだ彼は、正真正銘、自分の弟、エルヴァン・エンデだ。
「あー、エンか。もう入学式終わったのか?」
「3時間位経つのに『 も ・ う 』なの?」
結構長かったのにさあ…とエンはぼやく
そうか。そんなに時間が経っていたのか。
と、彼女は気づいた。
「うわっ!なっなにコレ、全部死体!?」
エンはリシアの脇にあった猪が怪物化したような動かぬものを見つけ、声をあげる。
「ひどいよな……待ってただけで、よってたかって俺の所に来るんだもの」
「姉貴がやったんかい!」
まぁね、と欠伸を噛みながらリシアは言う。
「それより、エノクに戻るのってエンだけか?」
「まぁ…他はもう寮に住み込みだし」
「手続きミスってしばらく自宅通いだもんな。いやぁー首都に住んでて良かったね。毎日マラソンだもの」
「それ慰めてんの?馬鹿にしてんの?…でもなんで?」
メタトロニオス王国の首都エノク。その一般住宅街が、自分達の家があるところだ。
ここ、軍施設ヒスタからは歩いて1時間と半。走ればもっと早いだろう。多分。
魔物さえでなければ。
ガサッという、草を踏む音がする。
何かが此方に歩み寄っている証拠だ。
エンも何かに気づき、左手に持った刀に手を伸ばす。
「他に被害が出るのも嫌だしさ」
先ほどのエンの問いに答えるようにリシアは言う。
右側に差した二刀の剣を左手で引き抜き流れるように右手にパスし、もう一度左手で抜く。
「もしかして……もしかしたらこいつらの親玉とか?」
「かもな」
その直後、巨大な猪のような魔物が走りながら姿を現した。
「横だ!」
リシアが叫ぶと同時に二人は猪の突進を避ける。
猪はリシアの寄りかかっていた木に突撃した。木はその衝突に耐えられず、折れて吹き飛んだ。
「っ!?おいおいっ!」
と、エンは驚くも、魔物の背後から刀を抜き、斬りつける。血が辺りに飛び散るも、深い傷にはならない。
エンが刀を鞘に戻す隙に、猪の魔物はエンに後ろ蹴りをする。
「がはっ!」
エンは地面に、体の横から強く打ちつける。
「―――時の狭間にて、制止せよ秒針!」
詠唱が完了したリシアは術を発動すると、たちまち世界は灰色の世界になった。
草も、木も、空も、魔物も…自分達以外は。
「ああいうのは、脚の近くに行かねぇ方がいいんだよ」
エンに駆け寄りながらリシアは言った。
呻きを上げながらエンは立つ。
「姉貴……なんで自分だけに術かけなかったんだよ」
「間に合うかと思ったんだが…遅かったな。悪い」
リシアは続く。
「あまり長い間、止められないからな…単刀直入に言えば、出来れば近付くな」
「っ!――分かったよ。どうせオレは
エンは声を荒げて言った。
悔しさと、不甲斐ない自分に対する怒りからだろうか。
「……相手が怯んだときには来てくれよ」
お情け、ではなく本心から。の、つもりだ。エンの怒りが自分に向けられているように思えるからだ。
色のない世界を、リシアは駆ける。両手の剣を握り直し、更に近付く。
敵まで後少し。そこで術を解除する。
魔物はエンを蹴り上げたとこしか知らない。そのエンを追おうと後ろを振り返る。
そこにはエンの代わりにリシアがいた。
だが、瞬きのする間に。
リシアは、魔物の側面にいる。
交差するように武器を振り下ろせば、猪の広い側面にバツ印がついた。
魔物は悲鳴のような叫び声をあげ、どっと横倒しになった。
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