第五話『日本の危機に甦れ! 王道戦隊!』
『初の敗北により精神的に追い詰められた王道戦隊! その間にドクソー星人はいろいろ大変なことを行っていた! 今こそ君らが必要だ! 立ち上がれ! 王道戦隊っ!!』
「この声って石島さんだよな」
「うるさくて『ベジタブル』の声が聞こえないわね」
キングレッド・赤井豪とキングピンク・桃白伊織は二人で『豊作戦隊ベジタブル』のDVDを観賞していた。その合間に流れる石島司令の声に二人はうんざりし、どうにかならないかとぼやいている。
「まあ、ボリューム大きくするしかないだろうな」
「このテレビデオ、音量大きくするとすぐに音割れするから嫌よ」
そう言いつつも音量を四十五(マックス六十)まで上げる伊織。その途端に『ベジタブル』の中のレッドにんじんが叫んだ。
『俺達が! 豊作戦隊だぁああ!!(どがしゃあああああん)』
レッドにんじんの魂の叫びが敵怪人の胸を貫く。
その咆哮は豪と伊織二人の耳を貫くばかりか、その部屋の扉の外に楽々と届く。次の瞬間、ドアが開け放たれた。
「赤井! うるさいぞ!」
怒声と共に部屋へ入ってきたのはキングブラック・黒場隆である。
トレーニングでもしていたのか、上下とも黒いジャージ姿。もう少し歳を取っていれば間違いなく公園をウォーキングする大人に見えていただろう。
顔を真っ赤に染めながら、内から湧き上がる憎悪の炎を豪へと放射しようと指を向けて声を荒げる。
「そんな中耳炎になりそうな騒音を撒き散らす……な――」
しかし隆の怒りは目の前に広がる光景に薄くなる。
そこは豪の部屋であった。本来ならば、彼一人でいるはずの部屋。
そこで、豪と伊織は二人でDVDを観賞している。
二人の間には一つのちゃぶ台。
ちゃぶ台の上には手がつけられていない二つのオムライス。
オムライスの上には赤いケチャップ。
ケチャップで書かれているのは『あいらぶゆー』の文字。
隆の頭の中でパズルのピースがかちっとはまり、一つの絵が完成した。
「お前ら! できてたのか!?」
「隆。いくら熱い絆で結ばれている俺達だからって、ぷらいヴぇーとな部屋にいきなり入るのはどうかと思うぞ」
「そうよ。駄目よ」
「…………」
隆は何も言えなくなり、回れ右をして部屋から出ると、後ろ手に扉を閉めた。
部屋の前から遠ざかっていく隆の背後から再び大音量が流れるも、隆はもう気にしなかった。頭の中は別のことで一杯だったから。
(桃白……狙ってたのになぁ)
黒場隆。二十四歳。
ニヒルだクールだともてはやされつつも彼女いない暦二十四年。
いまだ更新中だった。
「そうかそうかー、大変だなぁ」
隆は傷心を癒そうとキンググリーン・栄太の部屋へと来ていた。しかし、栄太は前日に発売されたロールプレイングゲームの大人気シリーズ『園子がんばります・冥界都市TOKYO』を二十四時間プレイ中であり、生返事を送るだけである。その表情は頬骨が少し落ちていて、目の周りは真っ黒に染まっている。生命エネルギーが削られていっているかのようだ。
「あー、この! 中ボスのくせに強すぎ」
ゲーム画面で次々となぎ倒されて行く仲間を哀れみながら、栄太は呟く。その、あまりに自分を相手にしない態度に隆は声を荒げた。
「ゲームなんかよりも大事なことがあるだろう!」
「人の幸せを喜べない人は、自分の幸せをも逃してしまうんですよ」
さらりと名言を述べたのは栄太の部屋にも関わらず、プラモデルをせっせと組み立てているキングイエロー・大作だった。半分ほどプラモデルは完成しており、コスチュームを着た女性の上半身を片手に隆へと微笑む。その顔は周りに光の粒子を撒き散らすかのような神々しさに満ちていて、それらしきポーズをとれば仏像へと変化しそうな物だ。
「世の中の女性は伊織さんだけではありませんし……隆さんにもチャンスはあります」
「正しいことを言っていると思うんだが、何故かお前に言われると人生が終わったかのように感じるよ」
「それは奇遇ですね。僕もそう思います」
(思うのかよ……)
隆がやりとりに疲れて嘆息した同時に、栄太が向かっていたテレビ画面が「ぷちっ」という音と共に黒く染まった。
次の瞬間には警報が鳴り響く。
「これは――」
「うがぁああ!? 二十四時間セーブしてなかったのに!? また最初からだぅお!」
栄太の悲痛な叫びに隆も大作も心の中で合掌しつつ、放送に耳を傾ける。
『大変だ! 君達が傷心している間に、ドクソー星人が日本をほぼ制圧してしまった! 君達にも休養が必要だと思ったから責めるつもりは全く無いが、君達のいない間にドクソー星人達は子供だけでなく奥様がたまでもとりこにしてしまったのだ! けして君達がいちゃいちゃしたり打ちひしがれたりゲームしたりプラモデルを作ったりしたせいではないが、奴等は羽田空港に六千万の人を集めて講演会をしている!! 直ちに鎮圧に向かってくれたまえ!』
「そこはかとなく俺達のせいにされているな」
「心外ですね」
大作と隆はまだ泣き続けている栄太を置いて部屋から出た。するとそこに豪と伊織も現れる。二人はどことなく頬を染めて、互いにそっぽを向いていた。
つまり、照れくさくてお互いを見れないという状態である。
「お前らどこまでい――」
「俺がふがいないばかりで……ザンシンに遅れをとり! そのまま日本の危機に繋がってしまうとは!!」
隆のツッコミを熱い口調と握り拳で消滅させた豪。伊織も息がぴったりのタイミングで後を続ける。何故か一度足を振り上げ、スカートの中身を見せてから叫ぶ。
「あなたのせいではないわ、豪! あなたの力不足は私達みんなの力不足よ!!」
「そうですよ! いつまでも自分を責めずに、今はドクソー星人を倒しましょう!!」
豪と伊織の芝居にいつの間にか大作まで加わり、隆は頭を抱えた。よく見ると大作は二人の傍にかがみ込んで拳を握り締めているが、視線は伊織の下腹部へと向かっている。先ほどのサービスにあっさり落ちたらしい。
どうやら完全にごまかされる方向へと進んでいるようだと、隆は観念した。
そこに扉を開けて栄太が現れた。
顔は真っ青で、しかし目は真っ赤に染まっている。
憔悴した顔だったが、それでも何かを吹っ切ったような印象を四人へと与えた。
「行くぞ。園子の弔い合戦だ」
チビな体格で言葉は大きい。
栄太の中にあるのは、二十四時間の苦労が水泡に帰したために生まれた復讐心だった。
「ドクソー星人なんて皆殺しだ」
「栄太……怖い」
「とりあえず出撃しよう。いきなり巨大ロボで」
『おう!!』
五人の声が、心が一つになる。
王道戦隊復活の瞬間だった。
赤いフェニックス。
黒い龍。
黄色いゴリラ。
緑の猿。
ピンクの白鳥。
五体のメカが空を舞い、大地を蹴る。
ゴリラと猿は途中でビルに掠りながらも何とか道路を走っている。
向かう先は、羽田空港。
「うお! 何だあれ!?」
レッドがコックピットから見える光景に唖然とする。羽田空港の滑走路には緑色の巨大な塔が立っていた。それは遠目から見て窓も無く、塔というよりも棒のような印象を受ける。そこから昼間だというのに遠方へと光が伸びていた。
『パチンコ屋の照明みたいね!』
「とりあえず、ここで王道合体だ!」
レッドの号令により進んでいたメカがフェニックスの周りに集まる。
『王道合体! DXダイオウドウ!!』
『デラックスはいらないです』
通信で聞こえてくるイエローの突っ込みを無視して、レッドは五体のメカを合体させた。
特に問題なく完成する巨体。
王道ロボ【ダイオウドウ】はゆっくりと立つビルを避けながら羽田空港へと前進を始めた。だがいかんせん体が大きく、道路を進んでいるとどうしてもビルにぶつかってしまう。ビルの中には人がいる様子が無いためにまだ安心だが。
「このロボで壊した物への弁償って必要経費かな?」
「尊い犠牲は必要よ」
レッドとピンクの絶妙な言葉の掛け合い。
それにブラックとグリーンは同じように落ち込んた。それぞれの中で思う事は失恋とデータ消失と理由は違っていたが。
だがそこでグリーンが何かに気づいたのか計器類を探り出した。
「何かあったか?」
レッドが訪ねた瞬間、グリーンは上空を見て叫んでいた。
「上だ!」
『おーーほほほおほほおほおほほほほほほほほっほほっほほおほっ!』
レッドは体に染み付いている感覚から、即座にレバーを操作してダイオウドウの両手を掲げさせた。そこへと振り下ろされてくる模造刀を真剣白羽取りで受け止める。金属同士が重なり合って耳障りな音を立てたが、次にはダイオウドウの各部分が何度も切り捨てられたように火花を散らした。
コックピットまで襲う衝撃に五人は翻弄される。
「うわぁあああ!?」
視界が揺れ動き、軽い脳震盪になりつつも、レッドはスクリーンに映る敵の姿を捉えていた。
「ザンシン!」
『おほほ。ようやく来たわね、キングロード。今度こそ、お前達を完全に倒す』
スクリーンに映るザンシンは最初の遭遇と変わらない姿だった。ただ、全長がダイオウドウと同じく五十メートルほどになっていることだけが違う部分である。
ダイオウドウは背中の黒龍を手に取り、剣の形へと変化させて身構えた。
「お前達! 羽田を占拠してどうするつもりだ!?」
『羽田の観客動員数を更新してあげるのさ! 良いことじゃないか。日本も景気が潤うだろう?』
「馬鹿な事を! それだけで景気が良くなるならば、すでに良くなっている!」
地球を守る戦隊と平和を脅かす敵の会話とはいまいち思えない言葉のキャッチボールを繰り返すレッドとザンシン。その中に割り込んだのは体を震わせているグリーンだった。そのどこかのんびりとした会話を聞くのが耐えられないと言ったように、鋭く言葉を切り込ませる。
「お前がどんな考えを持つのかは知らない」
その声は本当にザンシンの、ドクソー星人の考えなどどうでも良いといった口調だった。底冷えのする、暗く黒い感情が吐き出されている。
思わず会話を止めて、レッドはコックピットのグリーンを。
そしてザンシンはダイオウドウをまじまじと見つめていた。
「ただ、お前は殺す。それだけだ」
レッドとザンシンが話をしている間に主導権を移したのか、グリーンがレバーを押し込むと、ダイオウドウがザンシンへと肉薄する。およそ正義の味方には似つかわしくない台詞を放った後だけに他の四人も緊張に脂汗をかいていた。
「俺の二十四時間を返せ!」
ザンシンは余裕を持ってダイオウドウの一撃をかわそうとした。しかし、突如ダイオウドウはその場で回転し、その唐突さにザンシンの動きが止まる。
次の瞬間、回転しながら投擲された剣が、ザンシンの右腕を貫いていた。
『はうおー!?』
突き刺さった部分を抑えてうめくザンシンに、更にダイオウドウは追撃をかけた。
「これが園子の分!」
まず飛び蹴りがザンシンの下腹部へと突き刺さる。
「これが二十四時間の分!!」
飛び蹴りの激痛に頭が下がったところへと右拳のアッパーが入る。
「そしてこれが!」
ザンシンが仰け反る間に、ダイオウドウは両手を一度頭の上で交差させてから腰へと引き戻して、踏み込むと共に突き出す。
「俺の怒りだぁぁあっ!」
二つの掌底はアッパーで宙に浮かび上がったザンシンの腹部へと叩き込まれた。
『がふっ!』
鈍い音と共に飛ばされるザンシン。右腕に刺さっていた剣も取れ、近くに突き刺さる。そこまで来てようやくグリーンはレッドへと叫んだ。
「レッド! とどめだ!!」
「お……おう」
自分の熱い役を奪われたことにレッドは不服だったが、とりあえず剣を取り、必殺剣の準備を整える。その間によろよろと立ち上がるザンシン。
「ザンシン! これで終わりだ!!」
剣に光がコーティングされ、刀身が円を描くと共に光の粒子が放射されていく。ザンシンはダメージによって動けない体に動揺したために更に体勢が崩れる。
結果、ザンシンは避けるタイミングを失ってしまった。
『一・刀・両・断【ファイナル・ブラストスラッシュ】!(注・意訳)』
テイ・バーンに出した時とは違い、今度は天高く飛んでから勢いをつけて剣を振り下ろす。ザンシンは模造刀を杖にしながら自分の命を奪う剣をじっと見つめて――
(え?)
レッドはスクリーンで徐々に大きくなるザンシンの姿を見て違和感を覚えた。そして、その違和感を確かめる前に、ダイオウドウの剣はザンシンを真っ二つにしていた。
テイ・バーンの時と同様に、ザンシンは砂と化して消えていく。
相変わらずの、あまりにあっけない最後。
ダイオウドウは肩膝をついている体勢からゆっくりと体を起こして、ザンシンの面影を捜すように周囲を見回した。
「でも、本当にどういう原理なんでしょうね。必殺剣で砂と化すなんて……」
先ほどまでの阿修羅のごときモードから回復したグリーンが冷静に呟く。レッドを除く三人はグリーンの疑問に首をかしげていたが、レッドはザンシンの最後の顔が頭から離れなかった。
(ザンシン……どうして、あんな満ち足りた表情をしたんだろうか)
両断される瞬間、レッドはザンシンの『満足だ』という表情を見てしまった。それが何を意味しているのかわからないが、自分が何かに騙されているかのような気分になる。
(なんだ……俺は何かを忘れているのか?)
急に生まれた衝動にレッドは頭が混乱する。しかしピンクがレッドの肩を揺する事で、彼は正気に戻った。
「どうしたの?」
「いや……何でもない。いくぞ、羽田へ」
『おうっ!』
いつの間にか疑問を忘れたかのように四人はレッドの言葉に頷き、ダイオウドウは羽田へと歩みを再開した。
目指すは、羽田空港。緑の塔!
『続く!!』
次回予告!
ザンシンを倒し、ついに羽田につく五人。
しかし、そこにはドクソー星人を庇う主婦達六千万人が立ちふさがっていた。
その先にはドクソー星人のボス、オリ・ジナールが!
激しい戦闘の先に、勝ち残るのはオリ・ジナールか王道戦隊か!
次回、『王道戦隊キングロード』第六話(最終回)!
『最終決戦! そして伝説となる!』
五色の光が、敵を穿つ!!
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