第3話

 俺、サザナミ アカリは、命の恩人らしいブレッド=スターチアと名乗る金髪碧緑眼の美女と街に出ていた。彼女の厚意で、記憶を失くして何もわからない俺に街を案内してもらっている。


 街並みには石がよく目立つ。石畳の道路は歩きやすく、建物も白磁や赤レンガがよく使われていて頑丈そうだ。露店の見出し棚や看板などは流石に木だが、木にも色が薄く白が目立つものからしっかり染まった黄土色の物まで幅が広く、それがどんな箇所に使われているかを照らし合わせるだけでも面白い。そんなことを言うと、ブレッドには「変わってるな、お前。」と鼻で笑われてしまった。


 人々の賑わいも凄く、あれが安いだのいいものが入っているだのと威勢のいい掛け声が響いてくる。あまりにも声を張るので、向かい合って喧嘩でもしているのかと思ってしまう程だ。


 街はいま、祭りの真っ最中だとブレッドは言う。


「もうすぐ「祈願の入り」だからな。」


「祈願の入り?」


「あぁ。この街だけじゃないが、この時期になるとあたしらは、ありとあらゆる「存在リアル」がここにあることを「虚無ファウスト」に感謝し、祈りをささげる「祈願祭」を取り行うんだ。「祈願の入り」と「祈願の捧げ」の二つに分かれて、「入り」では自分の願望をテーマにした仮装をする。「捧げ」では願いの対価として、手作りの食べ物や手芸品を虚無に捧げる。そうして虚無ファウストに感謝を伝え、共に生きていくことを示すのさ。」


「へぇ……。」


 あれでブレッドは説明しているつもりなのだろうが、わからない単語ばかりでこれっぽちも理解できない。気の抜けたまぬけなあくびしかふわふわと浮かぶ。


「……まぁ、こんなことをするのはこの街ぐらいだ。それに今じゃ、感謝の意味合いも薄れて、ただ人が騒いで楽しむだけのものになっちまった。……虚無ファウストの恩恵が薄れつつあるのも、仕方がないな。」


「……なぁ、その「虚無ファウスト」とかってなんだ?」


 アカリは何気なく尋ねたつもりだった。だがブレッドは、正気を疑うような驚きの眼差しを向け、しかし記憶が消えているのだから仕方がないかと割り切ったようにしかめっ面をする。


「さすがに虚無ファウストも知らないのはヤバいから覚えとけ。あたしらが認識できるものを「存在リアル」、そうじゃないものを「虚無ファウスト」と呼び分けてる。存在と虚無は表裏一体で、互いに恩恵をもたらし合って命を繋いでいる。」


「……なんだかよくわからないな。」


 アカリが嫌味たらしくぼやくが、意外にもブレッドは嫌悪しなかった。


「まぁ、これを言葉にしろって言う方が難しい。例えば、建物の中で光るランプの光。それ自体は存在だが、その光が眩しいとか、少し暗く感じるなんてのは虚無の仕業だ。あたしらが、たかだかランプの光ごときに色々な感覚を持てるのは、虚無がいるおかげって、そういうことさ。」


「……難しいな。」


「あぁ、難しい。何が難しいのかも難しい。そういうもんさ、あたしたち「存在」と「虚無」の関係ってのは。」


 アカリは、これ以上考えても存在と虚無について理解を深めるのは、難しいだろうと考えるのをやめた。考えても無駄だと思ったのもあるが、それ以上にブレッドが、その言い草がどうにも引っかかった。


 それこそ口で説明するのは難しいが、街ではこれだけの規模で、本来の意味を失っているとはいえ今も続けられているお祭りに、彼女は肯定的でありながらも歓迎はしていない。虚無も、感謝し共存しなければならないと認識しているのに、心のどこかでそれを拒んでいる。


「……何かあったのか?」


「ん?」


 何について。それを言わなければ伝わらないその問いに、ブレッドは察したように物憂げに街を見つめた。


「別に、何もないさ。」


「……そうか。」


 答えられない訳ではないのだろう。自分が信用されていないのか、簡単に踏み込んで欲しくない事なのか、いずれにせよブレッドが答えてくれないのなら、それでいいと思った。


 ただ、答えないと言ったブレッドが、本当は聞いて欲しいと寂し気に思えたのは偶然だろうか。二人で無言のまま並んで歩くのが、何故だかこそばゆい。


「……なぁ、ブレッド―」


 そのこそばゆい空気をどうにかしようと切り出した、その時だった。


ガラガラガラガラガラガラガラガラッ!!


「ッ!?」


 何かが叩きつけられて割れたような、乾いた音が響く。


「何だ!?」


咄嗟に音のする方向を振り向けば、前触れもなく砕けた土壺の破片が散乱し、中に入っていたであろうスープがどろどろ道へ延びて湯気を立てている。


ガタンガタン!と、呆気にとられた意識が呼び醒まされるほどの物音が、次々と簡素な屋台の骨組みを畳んでいく。それに埋もれる人々の悲鳴、それは祭りには似合わぬ喧騒だった。


だが、そこに喧騒の元となる人物の影などはない。起こっている事象が、あまりにも怪奇的だった。


「ちっ、面倒だな……。」


 ブレッドが毒づいた理由は、すぐにわかった。阿鼻叫喚する群衆の中に、手近なものをそれに向かって投げつける者がいた。投げつけられた陶器のコップが、真っ直ぐそれに向かって飛んでいく。


 だが、コップはするりとそれをすり抜け、背後にある石壁に叩きつけられた。


「なっ!?」


 感嘆が漏れる。唖然と見つめるアカリの顔を、それはケタケタと意地汚く嘲笑った。


「無駄だ。そいつらはお前らじゃどうにもならない。」


 ブレッドは険悪に言葉を吐き捨てると、腰元に携えた白銀に輝く銃を抜いた。ただでさえ鋭いその眼光に一層力が込められると、僅かに引いた左足に呼応した腰が少し落とされ、銃に弾を籠めるハンマーと連動したリボルバーがカチャリと回る。


 導線がそれを捉え、咆哮。


 銃声が響き終わる頃には、ケタケタと笑っていたそれが苦悶に表情を歪め、叫喚する。


「ブレッド!あれは……。」


 その天地が返ったかのような苦痛の叫びが、無視のできないダメージを与えたのは一目瞭然だった。誰かの投げつけたコップが外れたのに、なぜブレッドの一撃は命中したのか。純粋な疑問は言葉に変換できず、戸惑いをそのままブレッドに問いかけた。


 それも仕方ないと、ブレッドは溜め息を一つ吐いた。


「あれは幽霊ゴースト。一体なんだと言われれば私にもわからない。だが、あいつらにはあたしらじゃ触れられない。祓い師の奴らが作るあいつら専用の武器じゃなきゃ、やつらにダメージを与える方法はない。」


「なんだよそれ……どうしようもないじゃないか。」


「あぁ。だがあいつらはあたしらに触れる。そして、気味が悪いほど個性豊かだ。一概にどうこう言えるものじゃない。ただ一つ言えるのは……。」


 話の最中に、弾丸で貫かれたゴーストの叫びに呼応したのか続々と幽霊ゴーストたちが集まってくる。自分の背丈を超える大きさの物から半分ぐらいのものまで、耳に煩わしく揺さぶる子供の声にモザイクをかけたような呻き声を発しながら、彼らはぐるぐると混ざっていく。


「あいつらは、あたしらにとって「害」でしかないって事だけだ。」


 そう言ってブレッドはもう一度、ハンマーを引いてリボルバーを回し、白銀の重心を幽霊に向けた。


 その闘気を隠そうともせずに、脅威に立ち向かう彼女の姿をこの場にいる全員が固唾を飲んで見守っていた。


 しかし、まるで彼女を覆い隠すかのように影が伸びる。黒い影が彼女の透き通るような柔肌に影を落とし、それを上から見下げた。


 そのまま倒れてくれば押しつぶされてしまいそうな、幅に広がった巨体が嫌味たらしくケタケタと笑う。


「わざわざ的がデカくなっただけか?」


 巨大化した幽霊に、おかえしとばかりににたりと口元を上げたブレッド。それにむっとした気を揺らがせて、その巨体を真っ直ぐぐらりと倒してくる。


「えっ……いや、いやいやいやっ!?」


 こちらから相手には触れられないが、相手はこちらに触れられる。このままその巨体に押しつぶされてしまうのは明白だった。


 それでも微動だにしないブレッドに、アカリは大いに焦りを覚えた。


「ブレッド!このままじゃ俺達押しつぶされる!早く逃げないと!」


 叫ぶが、ブレッドは全く耳を貸さない。目前の相手に集中し、その銃身を突きつけている。


 早く逃げなければ―。その本能に従おうとしたアカリがブレッドの腕を引こうとした時、ブレッドは相手を睨みつけたままにドスの効いた声を荒げる。


「うるせぇ。」


 瞬間、白銀の銃が唸りを上げた。目にも留まらぬ速さでリボルバーが一回転し、白にもやがかかったような黒の硝煙を吹き上げ、倒れ込んできた幽霊の巨体に、まるで星を描くように五つの大きな風穴が空いた。


 真っ直ぐ倒れてきた巨体に対して微動だにせず、二人は空いた風穴を潜り抜けるように立ち、身体を貫かれた幽霊がぶわりと白い煙が巻き上がるように四散した。


「……言い忘れたが、あいつらは物には触れられるが、あたしら生物には触れられない。背中がゾクゾクするぐらいはするがな。」


「それを一番最初に言えって!!」


 大真面目に怒号を飛ばしたアカリの真っ赤に染め上がった顔を、ブレッドは悪戯が成功したかのように、堪えていた笑いを吹き出して腹を抱える。


「あーあ!大の男がだらしないな!あの泣きそうな顔は傑作だった!額に入れて飾りたいぐらいだ!」


「こっ……のぉ……。」


 ブレッドが意地の悪い人間だろうというのは、口ぶりからしてなんとなく察してはいた。だが、自分は本当にダメだと思っていたのだ。それを笑われるというのは、どうにも気の許せない部分がある。


 それでもいつか、ブレッドのこんな性格を笑って許せる時が来るのだろうか。一緒に居て嫌という訳ではないし、常に機嫌の悪そうな様子だから、馬鹿みたいに笑っているというのは妙な親近感が湧く。


 これで危機は去った。誰もがそう思って、街の人々は再び日常の中へ動き出していた。


 だが、その中心にいる二人の背中を、氷塊を流し込まれたかのような悪寒がどろりとなぞる。


「キャアアアアアアアアアアッ!!」


 若い女性の悲鳴が上がった。鼓膜から響く動揺が脊髄を揺らす衝撃に、引き寄せられるかのように二人が振り向く。

 

「あなたやめて!正気に戻って!!」


若妻の悲鳴の先には、どこからか持ち出した角材を振り回す、歯茎をむき出しにして暴れる男の姿。愛する人の突然の豹変に若妻は慟哭し、襲い来るそれに怯えて腰を抜かしながら後ずさる。


「しまった……さっきの幽霊ヤツ、取り憑きやがったか!」


「取り憑いた?」


幽霊ゴーストはあたしらには触れられない。触れられないが、人の体を乗っ取って取り憑くことができる。アレを放っておけば、乗り移られた人間が幽霊に精神を支配されて、戻ってこれなくなる。」


「戻ってこれなくなるって……どういう?」


「聞きたいか?」


 ブレッドが意味深に聞き返すと、アカリは緊張感に生唾を飲んだ。


「わかってるなら聞くなよ、バカ。」


 ブレッドの罵りを合図に、二人は若夫婦の下へと駆け出した。アカリは真っ先に、腰を抜かして立てなくなっている女性の下へ。ブレッドは距離を取りながら、幽霊に取り憑かれた男の気を引く。


「おい粗チン野郎!モテないからって童貞臭い面ぶら下げてんじゃねぇぞ!!」


 相変わらずブレッドの悪態は胸を抉るようで頂けない。自分の事ではないにしても、他人事にあらずでは耳に入って来るだけで巻き添えだ。


「大丈夫、立てますか?」


「はい……でもあの人は!?」


「……とにかくこの場を離れてください。」


 あの人も大丈夫、任せてくれと言えない自分が情けない。だがこの場は、ブレッドに頼るしかない。自分はあまりにもこの世界の事を知らなさ過ぎる。


 ……だが大丈夫だろうか。いくらブレッドが強気とはいえ、相手は大の男。それも幽霊が取り憑き理性を失っている。横柄な態度に似合わずの華奢な体では、手に持っている角材に横薙ぎにされてしまえばひとたまりもないだろう。


「ブレッド!こっちは大丈夫!」


 ブレッドに合図を送るつもりで叫んだ。だがその時、目に入ったブレッドの表情には余裕が無い事に気づく。見れば、ブレッドは逃げ回ってばかりで武器を持っていない。腰に携えた銃は構えずに、ギリギリで男を引き付けて角材を躱している。


「ブレッド!銃は!?」


「生身の人間に銃なんかぶっ放したらミンチになるだろうが!!」


 それでもブレッドの身のこなしは素人のそれではない。戦いに慣れた戦士の動きだ。無駄がなく、咄嗟の変則的な攻撃にも器用に腕で流線を描き受け流している。これが正気の人間の一対一なら、危なげなく見ていられるのだろう。


 だが、身体を乗っ取った幽霊の一撃が徐々に加速している。恐らくブレッドはそれに対応しきれていないのだ。経験や技術で足りない部分を身体能力で補っているせいで消耗が激しい。このままではいずれ……、


「ガアアアアアアアアアッッ!!」


 僅かによぎった不安が的中した。唸りを上げた気狂い男の動きが加速する。少し離れた場所からもブンブンと空を薙ぐ音が響く。


 その乱雑に振り抜かれた攻撃が、ブレッドの身体能力を上回った。


「ぐっ!!」


 姿勢を崩したブレッドが足首を痛め、しゃがんで動けなくなったところに一撃。


 咄嗟に身体を転がしてそれを回避するが、次の一撃を避けるには間に合わない。


(なんとか受け止めて……っ!!?)


 回避ができなくなった以上、相手の一撃を受け流すかして凌ぐしかない。だが、転がった先である建物の隙間に、逃げ遅れたのか、まだ物心ついたかどうかぐらいの少女がうずくまっていたのである。


「しまった!!……。」


 ただ受け流して隙を窺えばまだどうにかできる自信はある。しかし、あの幽霊がこの子に危害を与えないという保証はない。建物の隙間という行き場を失くした上に、足がすくんで動けなくなってしまったのだろう。巻き込めば、無事では済まない。


 それを察したかのように、幽霊男の見つめる視線の先が、ブレッドの奥を見つめた。


「手を伸ばせ!早く!」


 叫んだ。しかし少女は恐怖ですくみ、ブレッドの声は空に虚しく溶けていく。


「ッ……くそったれっ!!」


 力んだ瞬間に激痛が走った。だが怯んでいる場合じゃない。物陰にあるものを片っ端から投げつけるが、幽霊男の足取りは止まらない。なんとか少女を抱きかかえるが、震えが尋常じゃない。ブレッドの体にこれでもかと力を籠めてしがみつく。


「ッ!!ちったあ大人しくしてろ!!」


 足取りを止めぬ幽霊男に、ついにブレッドが銃を抜いた。足元目がけ数発を乱射し、慌てた幽霊男の隙をついて脇から抜け出し背中を取った。


 瞬間、再びの激痛にこめかみに力が入る。


「ぐううっ!!」


 目を喰いしばった。視界は遮られるが、ガタイのいい屋台の男が目に飛び込んできた。


「おっさん!この子を!」


 嫌がる少女を無理やり引っぺがして、乱暴に男へとすくい投げた。ブレッドに彼の下へ放り投げられるほどの力は無い。その勢いの弱さを察して男が瞬時に駆け出し、間一髪彼女を受け止めた。


 渾身の、してやったり顔でにやりと笑う。


「ブレッド!!」


 アカリが叫んだ。すでに幽霊男は背後まで迫り、その両手に握られた角材が大きく振り上げられている。


 咄嗟に跳ねた体が駆け出した。体当たりでもかませば逃げる隙は作れる。だが、ブレッドと幽霊の距離は寸分。間に合わない。


 不気味に、取り憑かれた男の唇が振動した。


 アカリに戦慄が走る。緊張感に心拍が跳ね上がり、身体の内から焼けつくような感覚が込み上げてくる。


 あの角材が振り下ろされれば、ブレッドは間違いなく無事では済まない。額から血が流れ、無慈悲に角材を打ち付けられる姿が目に浮かぶ。


 熱い。ブレッドの悲鳴が脳内をこだまする。


 熱い。その後ろに見える、少女の慟哭が耳を劈く。


 熱い。それだけではない。誰ともわからない、同じ年ぐらいの子供が、物置小屋のような所で叫び声を上げる。


 熱い。熱い。熱い。熱い熱い熱い。


 視界が暗転する。木柱に括りつけられた人間が火に炙られる。叫ぶ、やめて、殺さないで、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!


 じっとりと体にまとわりつく、鈍い痛みが全身を焼き尽くす。


「やあああめろおおおおおおオオオオオオッッ!!!】


 絶叫したアカリの瞳が、赤黒い輝きを放ちながら発光した。


 その刹那、橙色の一筋の光が駆け抜けた。


 グオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!


「グアアッ!!?」


 直後、激しい地鳴り。それに驚いて気を取られているうちに、何かが幽霊男をねじ伏せ、その体ごと地面を抉るほどにねじ伏せていた。


 その姿は、紅に透過する澄んだ髪色ながら暴力的な輝きと炎をたなびかせ、全身の至る所に火花を散らしたひび割れ模様が張り巡らされ、その姿はまるで炎、溶岩、光と、あらゆる熱を模ったような姿をしていた。そして、所々に女性らしい特徴を有している。


 突如として現れたそれに、唖然としたブレッドがうわごとのように言った。


「アカリ……お前、何が……。」


 間に合わないながらも防御態勢を取ろうと振り返ったその時だった。恐らく自分を助けようと飛び込んだアカリの全身が、突然発光しだして姿形を変えた。


 それも、地面を抉っているのは男ではない。正確には、男に取り憑いていた幽霊が、変化したアカリの腕に捕まれ、男の存在を透過して押さえつけられているのである。


 取り憑かれた人間ごと幽霊を攻撃することはできる。しかし、取り憑かれた人間の中に潜む幽霊をピンポイントで仕留める方法など、幽霊との戦いに慣れたブレッドでさえ経験はない。


【コロス……コロス……。】


 静かに呟く炎の姿。メリメリと地面を抉り、確実に幽霊の体力を奪っていく。


【モウダレモ……コロサセナイッ!!】


 彼女はその瞳に真紅の涙を浮かべながら、引き剥がされた幽霊を炎で包み込み、炎は幽霊を焼き尽くさんと激しく揺れながら燃え上がる。


【ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ”ッ”!!】


 男に取り憑いていた幽霊が悲鳴を上げる。最初は力強く鮮明に、しかし段々とその音は小さくなり消えていった。


「幽霊を……完全に消滅させただと……。」


 そこにはもう、この場の人々を悩ませた幽霊の気配など欠片も残っていなかった。彼女を取り巻く熱気がそれを許さない。人々もその輝きに目を奪われてしまっていた。ただ一人を除いて。


「アカリ……お前は何者なんだ?」


 ただ一人だけが、この場を救った英雄に、白銀の銃口を向けていた。

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