奇妙な同胞
「レーサー大丈夫?」
起き上がりレーサーの様子を見ると下を向いてわなわなと震えていた。
キックボードを乱暴に扱ったから怒っているのではないかと身構える。
「今の…」
「あ、えっと、ごめんなさ」
レーサーがフラフラと近付き私の両肩に手を置く、やっぱり怒っているのではと反射で謝ってしまう。
「今のすげぇー!カッッケェェェ!ニンゲンを一度に二人もぶっ飛ばしちまうなんて!」
「え?えへへ…そう?」
レーサーは全く怒っていなかった。
「今の技!オイラにも今度おしえ…て…ひぃぃ!?シロ!シロ!」
レーサーが突然耳を伏せ、尻尾を膨らませて私に抱きついてきた。言葉が上手く出ないようで後ろに向かって必死の形相で指をさしている。
嫌な予感がした私はレーサーをくっ付けたまま振り替えった。
ぶっ飛ばした筈のニンゲンが歪な形で立ち上がっている姿がそこにあった。
カヌーから引き剥がしたのに色は何も変わっておらず、ゴムのような皮膚の上をメタリックグリーンとブラックが光の加減を完全無視してマーブル状に蠢いている。
首は捻れて頭は曲がってはいけない方向へぶらぶらとぶら下がっている。
手も足も曲がってはいけない方向へ曲がっていた。
そこで私は気づいてしまった。
認識できないのではなく、そもそもこういうモノだったのだと。
「うわぁぁぁぁぁああ!?」
「シローーーッはしれぇぇええええ!!」
遂に恐怖がキャパオーバーして叫ぶ私にレーサーが走れと叫ぶが足がすくんで動けなかった。
毛を逆立てて震える事しか出来ない2匹にニンゲンは「ウジュル…ウジュル…」と音を立てて近付いてくる。
こんなのに捕まったらどうなってしまうのだろう。
最悪の想像をしていたその時だった。
「隙を作るまでは良かったね」
女の子の声だ。
声と同時にニンゲンが動きを止めた。
後ろに誰かいる。
「ニンゲンは皮膚を爪で貫かない限り動き続ける、貫けば…」
プシュルルルルルル
ニンゲンが空気の抜ける風船のような音を立てながら萎んでいくと最終的には跡形もなく消えていた。
「こうなる」
その猫獣人は燕尾服モドキをひるがえし、ニンゲンが居た地面を踏みつけながら此方へ近付いてくる。
「アタシと同じあんたなら出来る能力だ、今日から教えてやるから練習しな」
そう言って
私と同じ人間顔だった。
『オハヨォ!!アサダヨォ!!』
世界に目覚ましの音が鳴り響く。
まずい!目が覚めてしまう!そう思っていると黒猫が見透かすかのように微笑み、私にしか聞こえないようなトーンで囁いた。
「ようこそ、
ポポポポン!ポポポポン!オハッガンッ!!!
よいしょ!コ●ショ!がんばるぞぅ!
良いところで起こされたのでイライラを目覚ましにぶつけて止めた。
この目覚まし…電池抜こうかな…。
時間を確認すると昼の一時だった。
何時もの私なら二度寝と洒落混みたい所だが怖い目にあってしまったので少し休みたいと思っていた。
何となく、これからもあの世界へ行けると確信して。
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