奇妙な追跡者

亀裂は忘れ去られたモノを吐き出し終わると逆再生をするかのように塞がっていった。

塞がっていくにつれて鐘の音も小さくなっていく。


その光景をボーッと眺めているとレーサーが大きな声をあげた。


「来た!アイツらだ!森へ逃げるぞシロ!」


レーサーはそう言うと慌ててキックボードに乗り森の方向へ向かう。


「クソッ!少しだけだったのに来るのが早すぎる!急げシロ!」


そんな必死な様子のレーサーを見た私は釣られて恐怖を覚え、全身の毛を逆立たせながらレーサーに着いていった。

運動能力が上がっているせいかレーサーには簡単に追い付ける。

レーサーは全力でキックボードを漕いでいたが、私はまだまだスピードを上げられる余裕があった。

むしろ、うっかり追い越してしまいそうだ。


そんな余裕からか、後ろが気になり振り向く。


そこには2人、それぞれ中に浮いてるカヌーのようなモノに乗った何かが追いかけてきていた。

カヌーの色はメタリックで緑カラス貝とよく似ていたが揺れる水面のように色味の変化があった。

私はその乗り物が呼吸する生き物のようにも感じた。


そのカヌーに乗っているは顔が隠れているわけではないのにどんな顔なのか分からない、姿でさえ脳に靄がかかったかのように認識できない。

全身の色がカヌーの色に引っ張られている様で全く同じ色をしている様にも思える。

私はそれがとても不気味で更に恐怖を覚えた。


「レーサー!アレは何!?」


あんなモノがこの世に存在してて良いのか!?私はそういう感情も込めてレーサーに問いかけた。


「アレはオイラ達猫を狩りに来る奴だ!だよ!」


「人間!?」


あんな化け物が人間なのか!?と思った私であったが子供心何故か納得していた。

あの醜い化け物はと感じている私が存在していたのだ。


ニンゲンはどんどん距離を詰めてくる。

私が本気で走れば撒く事は簡単だろうがそれではレーサーが捕まってしまう。


「レーサー!両足をのせて!」


「お、おいシロ!?こいつは1人乗りだぜ!」


なので、私がキックボードを運転することにした。

1人乗りな上、レーサーの脂肪が邪魔でかなり運転しにくいがスピードは格段に上がった。

それでも人間は一定の距離を保ち追ってくる。

何とか撒くか撃退したいと考えていると、進行方向に廃墟の1つである支柱のみの街灯がみえる。

よし、アレを使おう。


「シロすげぇ!はええ!」


「しっかり捕まって!」


私はキックボードを街頭の方へ傾けると支柱をしっかりと片手で掴む。

そうすると私達を乗せたキックボードはスピードを落とさず掴んだ街灯を中心に回転する。

私はそのまま追っ手に蹴りを入れるような形でキックボードをぶつけた。


2人の人間はカヌーから弾き飛ばされ草原に転がっていった。

操縦者を失ったカヌーはそのまま先の廃墟の壁に激突し停止する。


私達も撃退した際にスピードを失い、草の上を滑るように停止した。

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