奇妙な空


話が落ち着くと私はレーサーの乗っていたキックボードが気になった。

というより前回ぶつかった時からやってみたかった。


「ぼくもそれ、やってみたい」


そう言ってレーサーのキックボードを指差す。


「良いけど…そろそろここから移動しないとヤベェから一旦家に行くぞ」


「何がヤベェの?」


レーサーは縞模様のある尻尾を体に巻き付け、頻りに耳を動かし周囲を警戒している様だった。


「城が見えるだろ?オイラ達猫が城が見える場所に留まっているとな、オイラ達を狩りに来るんだ…確か名前は…」


ゴーン…ゴーン…ゴーン…


風が芝生を撫でる音しかしていなかった草原に鐘の音が鳴り響く、鉄の城の方からだ。


「この音はなに?」


「シロは初めて見るのか?せっかくだから見てから行くかぁ…ほら城の方!空が割れていく」


そう言ってレーサーが指をさす、示した方を私も見ると確かに城の上の空に大きな黒い亀裂が横向きに入っていた。


その黒い亀裂は鐘の音が鳴り響く度、バキバキと口を開けるかのように縦へ広がっていく。

その亀裂の中にある暗闇から、数えきれないほどの茶色いモノが城内へ向かって落ちていく。


茶色いモノをよく目を凝らして見ると洗濯機や人形…冷蔵庫に車などが確認できた。

どれも古びて錆びていたり塗装が剥がれて材質が剥き出しになっている。


「レーサー、あれはなに?」


私は指を差して問い掛ける。

どう見てもゴミなのだが、それだけではない寂しさや悲しみのようなモノを子供なりに感じたからだ。


「あれはな…繋がりを持たないモノ…とも言うらしい」


「繋がり?」


「モノには役目があるだろ?その役目を終えたとしても最後は土に帰れるモノ…自然と繋がってるモノが殆どなんだってさ、けど中には役目を終えても土にも帰れない繋がりを持たないモノがある」


そう言ってレーサーは亀裂の方を指差す。


「何だかかわいそう…」


私は寂しさや悲しみのようなモノの正体がわかると余計に寂しくなった。

まるで自分の事のように、無意識に他人事ではないと感じている様だった。


「そういうモノは忘れ去られるとあの城へ行き着いて城の一部になるらしい、先輩からの受け売りだからオイラにゃよくわからねぇけどな」


「そうなんだ…」


忘れ去られたモノの中には金属も含まれている筈なのに金属が地面に落ちたような耳障りな音は聞こえてこなかった。鐘の音だけが一定感覚で聞こえてくる。

城に中に落ちると言うよりも、まるで城に吸い込まれていくようだ。


「…少なくともずっと忘れ去られているよりかは幸せだとオイラは思うぜ」


この時のレーサーが、情けない顔をしていた私に気を使い然り気無くフォローしてくれていたのだと大人になってから分かった。

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