奇妙な友


子供部屋の勉強机で大作にっきを書き終わった私はそろそろ寝ようかと壁掛けの時計を見て時間を確認する。


夜の1時


既に昨日の二の舞になってしまいそうな時間だった。


私は日記を閉じると子供部屋から出て、他の家族が起きないようにこっそり寝床に入った。


一日寝ていたせいでまだ眠くない私だったが布団に入るとお気に入りのフカフカ毛布が待っている。

夏だというのにその毛布にくるまるり顔をスリつけると柔軟剤ではなくシャンプーのような良い匂いがした。

そのまま毛布の毛並みの良さと重みを堪能しているうちに、安心した私はあっさりと眠りに落ちた。




眠った筈の私が目を開けると見覚えのあるピンク色の空とパステルカラーの惑星、そして心配そうに此方を見つめてくる茶トラの猫獣人が見えた。


茶トラの猫獣人は私と目が合うなり頬を膨らませた。


「あんな所でボーッと突っ立ってるんじゃねぇよ!呼んでも揺すってもピクリとも動かねぇから死んじまったのかと思ったぞ!」


「ふぁ?」


捲し立てるように怒る茶トラに私は着いていけず間の抜けた声が出た。


「あーもう!お前もしかして生まれたてか?そうなんだろ?」


「生まれたてってなに?」


私は当時九歳だったが、茶トラの言う『生まれたて』という単語に私の知らないニュアンスが含まれている事を何となく感じとれた私は首をかしげた。


「なにって…生まれたては生まれたてだ!そうか生まれたても知らないか…そうかそうか間違いねぇ…クックックッ生まれたてなら先に見つけたオイラが名前をつけてやらねぇとなぁ?」


「変なのはやめてね」


茶トラは私が『生まれたて』だと知ると途端に上機嫌になった。どうやら名前をつけてくれるらしい。

私も私でもう一つ名前が出来る事にワクワクし、あえて本名は名乗らなかった。

コードネームとか、大好きなお年頃だった。


「お前特技とかないのか?」


「寝るのが得意だよ」


「それはここの奴等全員が得意だ!そうか無いか…うーん…参ったな…特技もない真っ白…真っ白…」


茶トラは名付けのヒントを得ようと私に質問をしてきたが参考にもならなかったようで考え込み始めた。

が、すぐに思い付いたようで顔をあげ此方を指差す。


指先に肉球がある…いいなぁ…


「よし!真っ白!お前の名前はシロ助だ!」


「えぇぇ~~!あんちょくって言うんだよそういうの」


カッコいいコードネームを期待していたのにあんまりだ!と顔だけ茶トラに向けたまま芝生の上に寝転んだ。


「文句を言うな!オイラはレーサー!ボード乗りのレーサーだ!よろしくなシロ!」


茶トラはそう名乗りながら手を差し出してくる。

もう略された…と思いつつ私は差し出された手を握り立ち上がると、握った手でそのままレーサーと握手する。


「よろしくレーサー」


何故か思い通りにならない明晰夢…そして続きのある夢を見るのは初めてで当時の私はとてもワクワクしていた。

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