奇妙な猫
私はそこを『段々の丘』と勝手に呼ぶことにした。
段々の丘へ行くと早速私は考えていた事を実行する。
丘の一番てっぺんから助走をつけてジャンプ!
ジャンプジャンプ!ジャンプ!ジャンプ!!
着地も猫らしく音をたてずしなやかに着地することが出来る。身体も軽い。思い通りに動く。
現実の肉体は仮初めの肉体で本当は此方が本物なんじゃないかと思ってしまうほどだった。
超がつくインドア小学生だった私は悲しくも運動の楽しさを夢の中で知った。
ここはなんて楽しいんだろう。
そう思い脚を止め、再び景色に見とれたその時だった。
「うおおおお!!どけ!どけぇぇえええ!!」
初めてのこの
鬼気迫るような声質に慌てて振り返ろうとすると。
ゴンッ
癖で右側から振り返ろうとした為、後頭部から少しズレて頭の右後ろに声の元であろう何かがぶつかり強い痛みと衝撃が走る。
夢だというのに痛みがあるのはおかしな話だが実際痛い私はそれどころでは無かった。
こ、この痛みは!テーブルの下に潜ってモノを拾おうとしたら目の前にゴキブリが居て慌てて勢いよく立った際にそれはもう勢いよくテーブルにぶつけた時の痛みに似ている!!
そんなどうでもいい事を走馬灯のように高速で思いだしつつ鼻血が出そうな痛みに耐えながら振り返る。
そこには茶トラの猫獣人が困ったような表情で此方を見て居た。
人間顔の私とは違って猫のままの顔をしており、私よりも背が低く太りぎみで丸太で出来たキックボードのようなモノに乗っている。
ゴーグルを頭につけてチョコレート色の革のジャケットを着こなすその姿はまるで昔のバイク乗りだ。
それ楽しそう!ぼくもやりたい!
そう思っていた矢先、私は夢から覚めてしまった。
現実に戻ったというのに夢でぶつかった所が痛い。
殴られたかのような痛みという訳でもなく、かといって頭痛とも違う、まるで魂そのものが痛んでいるかのような不思議な痛みだった。
時間を確認するともう夜の6時になっていた。
台所の方からご飯の支度をしている音が聞こえてくる。
トントントントン、ジュワージュゥゥゥ…ザーーーッカチャンッカチャカチャ
頭の痛みをすっかり忘れた私は安心感のある音と匂いに釣られて二段ベッドから降りると小走りで台所へ向かった。
不思議と長い旅から帰ってきたかのような感覚があり、早く家族の顔が見たかったのだ。
おかあさんおかえりー!
え!?マサヒロあんた今までずっと寝てたの!?
……それはもう…物凄く怒られた。
私はその日の夜、泣きながら宿題である日記を書こうとしたが1日寝ていたせいで書けることが無くて更に涙が出た。
大人になると感情の制御が上手くなり滅多なことでは泣かなくなってしまうが、当時小学生の私に感情の制御というのは難しく、一度出てしまうと簡単に次々と出てきてしまう涙腺をしていた。
見かねた母が「夕飯の時に言ってた夢の話でも書けば?」と助け船を出す。
それだ!と私は夢の内容を下手っぴなりに一生懸命書いた。
不思議な世界…また行きたいな…
そう思いを馳せながら書いた日記は1ページでは収まりきらない。
その日、字を書くのが嫌いなものぐさの私は人生で初めて長い文章を書いた。
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