奇妙な夢


夢の中で目を覚ましたという表現はおかしいが、そうとしか言えない状況だった。


夢の中の私は芝生の上で寝ていたようで、体を起こすと目の前に見たことのない風景が広がっていた。


空はピンク色で地平線は夕焼けのようなオレンジ色、雲ひとつなく綺麗なグラデーションになっており、空には大小様々なパステルカラーの惑星が浮かんでいた。


私は丘の上に座っており、遠くで大きな錆びた鉄の城が大きな歯車を回して無数の細い煙突が紫色の煙を上げているのがよく見える。

あの城の周辺だけ地面が赤くなっており、雑草すら生えていないのがよく分かる…あまり近付きたくはないなと本能で感じた。


遠くばかりを見ていたが自分の周囲も見回してみる。


近くに木のようなものは見当たらず妙に柔らかい芝生が広がっている。

座ったまま後ろを向くと遠くの方に緑の濃い森が見えた。

私が今いる広い原っぱには所々建物が立っていたような跡地がある。

その殆どが崩れており壁の土台部分が残されているだけだが、左を向くと辛うじて原型が分かる建物がそこにあった。


当時の私は無知で何の店か分からなかったが今なら、あの建物はブティックだったのだろうと思う。


私は立ち上がりその廃墟に近付いた。

裸足だったが不思議と不快感はない。


屋根と二階部分は丸ごと吹っ飛んだかのように存在しておらず、黄色と赤の二色のレンガを使われた綺麗な壁に夏の桜の葉を想わせる濃い緑のドアがつけられている。

私はヒビの入ったガラスのショーウィンドウにへばりつき中を覗くとそこには胸部や手だけのマネキンが置かれていた。


さらに奥へ目を凝らしてみるが奥には外と同じ芝生が生えているだけだった。


ふと、私は自分の姿が気になりガラスから離れる。


ガラスに写る自分の姿を見て驚いた。


白いショートの髪に同じ色の猫耳には金の輪のピアスが光を受けて輝いている、眼は灰色、服は白い短パンTシャツを着た少年がガラスに写されていた。

尻尾ももちろんついており耳と同じような輪がつけられている。

顔は人間だが現実とは異なりデフォルメされた見た目になっていた。


自分の耳と尻尾を触ってみるととても手触りがよかった。尻尾も猫耳も初めての体験だが不思議なことに感覚が存在した。


景色といい感覚といい体験したことのない筈のモノを再現するなんて本当に変な夢だなぁと子供の私でも感じていた。


明晰夢めいせきむ

これは夢だという自覚があり、その上で意思をもって自由に行動できる夢を『明晰夢』と呼ぶのだと後の私は知ることになる。


当時『明晰夢』という言葉を知らなかった私は自分の姿を確認するや否や「これ!遊べる夢だ!」と大喜びで草原を裸足で駆け回った。


今の私は猫獣人だ、なんだって出来るし脚も速い、高いところから落ちても痛くないし目も良く見えてとても楽しかったのを今でも覚えている。


変なテンションで草原を走り転げ回っていると、遠くに段々畑のような段差のある丘を発見する。

何となく「あそこで助走をつけてジャンプをしたら楽しそうだなぁ」と思った私はその丘へ向かった。

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