さよならフォルマッジョ
戸棚のなかには古く硬くなりはじめた
フランスパンに安いチリ産のワイン
書きかけの手紙はすでに発酵し始め
こいつはなんになる? 味噌でも醤油でも
ない、カース・マルツ? 冴えないな
フォルマッジョ・マルチョのほうが
好みだけどな、あの手紙の宛名は
誰だっけ、お袋でもないし、友だちでもない
蛆のわいた腐ったチーズ
サルデーニャ人の羊飼いに
贈れば喜ばれるそうだが
そんな知り合いもいやしない
でもチーズは好きだな、蛆がわいてなけりゃ
もっといい、最高だ、みんな好きだろ?
The Cooper's Hill Cheese-Rolling and Wake、チーズを転がし奪い合う、祭りだ
祭りには生け贄がいるんだ、この手紙に
書かれていたなにがしかの想いを捧げたら
生け贄にはならないか、血も所望?
安いチリ産ワインで許してくれよ
アルコールとは手を切って真っ当な
人生を歩みたかった、おまえが好きな
もの、たくさん教えてくれよ、また会おう
あの映画、朝日会館のアジア映画祭で観た
映画のタイトル、わすれたから、教えてくれ
真夜中のティータイム
向かいあうあなた
眠っているちいさな吐息
暖かな茶の薫りに満たされた
胸から吐息とともに言葉が
だれに向かうというわけもなく
あふれてあなたが拾いあげて
それを胸にしまっていく
また静けさが降りてきた
戸棚のなかはすっかり、がらんとして
余所余所しくハッカの香りがする
白いもの、ぼくはぷちり、と潰した
ゆび先を舐めてフォルマッジョとつぶやく
外国人の友人はいないから、さよならだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます