日々 散文詩
そのころの
ぼくの悲しみは
保健所に連れて行かれる猫を
救えなかったことで、ぼくの絶望は
その理由が彼女が猫は嫌いだからという
自分というものの無さだった
ぼくの諦めはその翌日も同じように
珈琲を淹れて楽しみ美味いと感じたことで
ぼくの希望は生きている
ということしかなかった
色褪せたベンチに座る目やに汚れ
襤褸を着た年寄りより
若いということ
ただただそれだけだった
だからボートを盗んだ日
沖に出てすぐの小島のまえで、汗だくで
自分たちの限界を見せつけられたとき
ぼくらが共有した波が重なりあう
きらめきも、そらの深さも
忘れたくなかった、けれど
色褪せたベンチの一点へと
否応なく足は進み
そうして
若き日々に感じた
あらゆることを、まるで
美しい思い出として
酒のつまみに語らうことを
ぼくは傷ましく思う
忘却と懐古、そんな歪な美しさを
ぼくは憩う、忘れてしまった醜さを
刻みたいすべてに、まっすぐに
折れてしまうまえに
それはやはり
悲しみを産むのだから
自分の尾を追いかけて
ぐるぐる回る馬鹿な犬みたいだ
そうして、ぼくのなかには
猫はどこにもいなかった
そんなありふれた悲しみ
2001年8月の誕生日1日前
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます