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 それから瑠璃は紺色のコートのポケットから、一つの木彫りの彫刻を取り出した。

 それは翡翠が瑠璃の誕生日にくれたもので、(翡翠はそうして自分の作品を誕生日のたびに、宝石の国で暮らしている子供たちに手渡していた)それは一羽の小さな鳥の彫刻だった。

 翡翠のプレゼントは子供たち一人一人違っていて、たとえば琥珀には、翡翠は鹿の彫刻をプレゼントしていた。

 翡翠は瑠璃の誕生日に毎年、鳥の彫刻をプレゼントしてくれた。 

 瑠璃は今、手元にその鳥の彫刻を六羽分、持っていた。

 六年分の宝物。

 瑠璃はその鳥たちを大切に手の中で、一羽ずつ握りしめて、お祈りをした。

 ……この鳥たちを空に解き放そうかどうか、迷ったのだけど、一緒について来てもらうことにした。

 それは瑠璃の最後のわがままだった。

 瑠璃は、琥珀の手前、秘密にしていたけど、ずっと前から、きっとあのとき、翡翠が瑠璃をこの場所に迎えに来てくれたときら、……翡翠のことが好きだった。

 だから翡翠のくれたこの鳥たちは、瑠璃にとって翡翠の分身たちとも言える大切な、愛おしい存在だった。

 これから私はこの六羽の鳥たちと一緒に天国にいく。

 ……遠い空の果てにある天国行きの電車に乗って、……私は私の世界を救うんだ。

 お祈りが終わると、瑠璃は鳥たちをコートのポケットの中にしまった。

 そして目を開けて、瑠璃は、目の前にある崖に目を向けた。

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