でも瑠璃がいなくなって、琥珀にはようやく自分が描きたかった絵はどんな絵なのか、わかった気がした。

 それは瑠璃の絵だった。

 琥珀は今まで瑠璃の絵を一枚も描いたことがなかった。琥珀は人物画は描かずに、いつも自然の風景ばかりを描いていた。

 琥珀はこの北の大自然が大好きだった。

 四季の移り変わりが好きで、風の音が好きで、大地の鼓動と、太陽の光が大好きだった。雨も好きで、雪も好きで、月も、星空も、暗い夜も、明るい朝も昼も、大好きだった。

 あらゆるものが絵を描くための素材となった。

 琥珀は絵を描いているだけで満足だった。それだけで、琥珀の内側はいつも完璧に満たされていた。

 だけど琥珀は人物画は描かなかった。

 興味がなかったし、実際に一度先生に進められて先生の絵を描こうとしたのだけど、どうしてもうまく描くことができなかった。

 理由は自分でもよくわからない。

 それから琥珀は人物画を描こうとはしなかった。

 でも、過去に一度、瑠璃に「ねえ、琥珀。今度私の絵を描いてくれないかな?」とお願いされたことがあった。

 琥珀は瑠璃のお願いだから、「わかった」といい瑠璃の絵を描こうとした。でも、先生のときと同じように瑠璃の絵を描くことはできなかった。

 琥珀は瑠璃に「ごめん」と誤った。

 すると瑠璃は「ううん。こちらこそ、無理を言ってごめんね」と少し悲しそうな笑顔で、そう言った。

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