森の奥深くにまで入って捜索したのだけど、瑠璃はどこにもいなかった。

「……先生。みんなで別れて探したほうがよくないですか?」琥珀は言った。

「いや、それはだめです」先生は言う。

「琥珀の気持ちはよくわかりますが、森の中でばらばらになるのは危険です。いくら星が輝く夜とは言っても、ここは冬の暗い森の中です。私たちまでこの森の中で迷子になってしまったら、もう誰も瑠璃を助けることができなくなります」

 先生の言うことは、もっともだった。

 琥珀とは違い最初からそのことを理解しているのか、翡翠は森の中で瑠璃の姿を探し続けていた。

 翡翠は時折「瑠璃ー!」と大きな声を出した。

 琥珀も負けじと「瑠璃ー!!」とちからいっぱい、瑠璃の名前を呼んだ。

「瑠璃ー!」

「瑠璃ー!! どこにいるの! 返事をして!」

 二人は大声を出して瑠璃を呼んだ。

 でも、暗い夜の中から返事は帰ってこなかった。

 遠くで鳥の鳴く声が聞こえた。

 空には、真っ黒な色をしたクロツグミが飛んでいた。

「もしかして、瑠璃、沼にでも落っこちちゃったんじゃないかな?」心配そうな声で琥珀は言った。

 宝石の国の近くの森には大きな沼があった。危ないから近寄らないようにと、幼いころから注意されていた、人を飲み込むとても深い底なし沼だ。

「そんなことない。瑠璃は沼のことを知っている。間違っても沼に落っこちたりはしないよ」翡翠が言った。

「じゃあ、崖から落っこちちゃったんじゃないかな?」震える声で琥珀が言う。

「それもない。瑠璃はそれほど不注意な行動をする人じゃない」翡翠は言う。

「でも、でも……」琥珀は言う。

 琥珀は瑠璃のことが心配でたまらなかった。

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