100.煉獄の呪縛
迫りくる五体の
先行し近づいてきた三体と接敵すると、一体目の
立て続けに二体目の剣が迫るが、これもビジネススーツを僅かにかすめるに留めた。すぐビジネススーツに施された
三体目の斬撃を
(──思っていたより、随分と甘い攻撃だな)
一太刀目をしのがれた
宗谷の逆境における集中力。それに加え、避ける事に最重点においた、流水のような動きが、我武者羅な攻撃を受け流し続けている。
(大振りかつ単調。緩急も無く、力任せに斬撃を繰り出しているだけか)
ただ、持久戦となれば別である。最下級とはいえど『色付き』の体力は人間とは比べものにならない。長期戦において先に動きが鈍り、不利になるのは宗谷の方だろう。このまま避け続けてるだけという訳にはいかなかった。
また
現状、防戦一方の宗谷だが、決して打って出れないわけではなかった。様子見の回避を続ける理由の一つとして、
精霊術により、炎の精霊の群れを圧縮し封じ込めた剣。これが爆弾のような挙動を行う原因だった。その剣を持つ
最初はメリルゥが地精霊に頼り緊急対応し、二度目と三度目はシャミルが炎精霊の送還をもって解除した。
二人はここにいない。攻撃をかわしながら、五本分の爆弾と化した炎の剣をどう処理するか、宗谷は考えていた。
(剣を持たせたまま追い詰めれば、発火し自爆する。ならば、剣を手放せばどうなる?)
試しておく必要がある。回避行動のみ行っていた宗谷が、五体の内、一体の
弧を描く高速の斬撃。回避から攻撃への
鋭い風切り音の後、一瞬の間を置いて、炎の剣を持った
【グアアアアアアアア!】
切り離された腕は宙を舞うと、地面に転がり落ちた。炎の剣は、切断された腕の手に握り締められたままである。
【……グギ……ギイィ】
たった今、隻腕となった
僅かな間の後、口から大量の血混じりの泡を吐くと、そのまま糸が切れたように崩れ落ちた。宗谷の目には、それが事切れているように映った。
(予想はしていたが、やはり剣を手放すと死ぬ。暗黒術による呪縛か。そして起動──)
悠長にしている暇は無かった。地面に落ちた腕が手にしている、炎の剣が発火を始めている。手放した事により、
周りに居た四体の
──薄暗い黄昏の空の下、轟音と共に、爛々と輝く凄まじい火柱があがると同時に、焼け付くような熱風が四方に吹き付けた。
素早く反応し、出来る限りの距離をとったつもりだが、吹き荒れる熱風により、宗谷は煤にまみれながら軽く咳き込んだ。露出した頬や首筋にも僅かだが、灼けるような痛みを感じていた。
(追い詰めても起動。切り離しても起動。──残り
宗谷は舌打ちをしながら再び対処法を考えていた。剣をひとまとめに集めれば、一撃必殺の
だが、
離脱のタイミングを誤れば爆炎により、あの女神の待つ庭園に送られるだろう。女神の嘲笑という腹立たしい想像をして、宗谷は僅かに顔を引きつらせた。
緊急待避していた、四体の
いかに対処するか。無難な方法としては、今のを四体と四本分、四回繰り返せば、この場は対処出来る筈である。さらに身体が煤まみれになるが止むなしだろう。宗谷は仕方ないと言ったように溜め息を吐くと、再び
その時だった。目の前に居た一体の
揺れた
(──氷の矢?)
宗谷は移動しながら振り向くと、距離にして二百メートル近く、昼頃潜んでいた崖上に、長い黒髪の女性が弓矢を番えて立っているのが見えた。
再び番えた矢が放たれると、今度は起爆を開始した炎の剣の近くに刺さり、氷塊で覆い尽した。
(──要領を理解してくれている。助かるな)
炎の剣は氷塊で覆われ、起爆動作が停止していた。時間経過で氷解すれば、また再起動しそうだが、今すぐという訳ではなさそうだった。
宗谷と
宗谷は残る三体の
「ソウヤさん!」
続けて、よく聞き覚えのある、心地良い女性の声がした。やはり間違いなくイルシュタットからの援軍である。このタイミングで来てくれるという事は、
暗闇の向こうから駆け付け、姿を現したのは、赤い
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