98.廃墟と化した街で
宗谷とシャミルの二人は、崖を滑り降りながら、リンゲンの街に降り立った。
禍々しい赤い角の悪魔が去り、廃墟となった街は、不気味な瘴気が漂っている。大雨の影響で
「生存者を探そう。厳しい状況だが、上手く難を逃れた住民もいるかもしれない」
「わかりました。……ねえ
恐慌状態に陥りかけていたシャミルは、今は落ち着きを取り戻していたが、街の惨状も影響しているのだろう──以前のような快活な様子は無かった。
「打ち果たすには組織の力がいる。だが、これまでも、どうにもならなかったのだろう。──移動と殺戮を繰り返す、神出鬼没の悪魔か。想像以上に厄介だな。これではまるで天災だ」
強大な力を持っていても、果敢に挑んでくるような猪武者や、
徹底的に分析して
だが、今回の相手は果実をもぎ取った後に、狡猾に行方をくらませる。
そして、重大な懸念があった。
(──女神の言う世界の危機か。この事態ならそうとも取れるが。きっと、他にあるのだろうな)
あの女神の関わる事は、いつだって想像の範疇を軽く超えてくる。
◇
「まだ残党が残っているとは。捨て駒でしょうか」
そう呟きながら、血塗られたダガーを拭うシャミルの目の前では、心臓を一突きされた
探索の最中、一体の
問題の赤黒い剣も、シャミルの
「あの巨体だ。群れれば存在を気取られる。もし置き去りにされたなら、まだ街に悪魔が潜んでるかもしれない」
「要警戒ですね。救援で
シャミルが先程の戦闘で手の甲をかすめたらしく、血を舐めていた。
かすり傷のようだが、いずれどちらかが軽くない怪我した場合は、癒し手の力が必要になる。
特にあの
「タットくんが、救援を呼んできてくれる事を祈ろう」
宗谷は降りしきる雷雨の中を駆けた、勇気ある
◇
夕暮れまで探索を続けたが、生存者を見つける事は出来なかった。
まだ半分以上の区画を捜索出来ていないが、日が傾き視界も悪くなりつつある。小休止が必要な局面かもしれない。
「
代わりに推理の裏付けとなる証拠のようなものが、リンゲンの街のそこら中から見つかっている。黒眼鏡の
「何を目的に、生け贄をしたのでしょう」
「
宗谷は以前に古砦で、
「リンゲンの住人、それに加えて何を生け贄にしたかはわからないが。全ては
「
突然シャミルが宗谷の言葉を大声で遮った。猫耳がぴくりと動いている。
そして、明後日の方向──探索を終えていない区画に向けて全力で走り始めた。宗谷も身を翻してそれを追う。
すぐさまシャミルから
『……助けて。足が……うう……痛い……怖い』
それは危機的状況を伝える、少女の声。怪我をしているのは間違いない。
だが、それだけでは無い様子だった。嫌な予感がする。
「シャミル、よくやった」
「今まで聞こえてなかったのですが、女の子が一度だけ大声を出したので。……ただ、これはまずい状況かもしれない」
やがて二人は、足を怪我して倒れている少女を視界に捉えた。
そして同時に映る異質なもの。少女は、赤黒い剣で武装する
「ああ……まだ、こんなに潜んでいたのか」
シャミルが急ブレーキをかけ、顔を引きつらせながら、立ち
最下級の
(次から次へと困難が多すぎる。女神よ、一体どうしてくれようか)
立ち
やがて白銀のレイと呼ばれる英雄の少年を、異世界へと導いた始まりの魔術。宗谷は手をかざす。
「――目に映りし、万物を我が手に。『
悪魔の群れの中にいる少女の姿はかき消え、宗谷の手元まで移動した。
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