97.食い散らかされしもの
崖上から望めるリンゲンの中央広場では、新たな局面を迎えていた。
不意打ちを受け激昂する漆黒角の
尋常ならざる戦力を持つ、二体の怪物がにらみ合い、対峙している。
(──
宗谷は世にも稀な事態に妙な感動を覚えつつ、黒眼鏡に指を触れ、二体の悪魔を食い入るように見つめていた。
『……
『シャミルは援護の準備を。状況次第では、僕が無理矢理にでも
この
相打ちで両者が果ててくれれば大万歳であり、そうでなくても潰し合いで消耗した隙を奇襲すれば、漁夫の利を狙える可能性がある。
もし、その好機が訪れたなら、確実に拾わなくてはならない。
わずかな膠着の後、漆黒角の悪魔が先に仕掛けた。不意打ちのお返しとばかりに、鉤爪で
【グアアアアアアアアアァァァ!】
刹那、絶叫を上げたのは、鉤爪の一撃を決めたはずの、漆黒角の悪魔の方だった。
血飛沫──浴びた返り血が紅蓮の炎となり、身体から火柱が噴き上がっていく。
『
漆黒角の悪魔が再び
ようやく接近戦の不利を悟った漆黒角の悪魔は、暗黒術の詠唱動作に入ったが、その術が完成する事は無かった。
詠唱動作を行う片腕を
鈍い音と、再度の
(──相性もあるだろう。が、実力差がありすぎる。こうも違うのか)
漁夫の利狙い、などという甘く見積もった考えは、撤回せざるを得なかった。
それに加え、
『あ、あの動かない
六体の
窮地におかれる漆黒角を手助けしないのであれば、シャミルの伝えた通り、消去法で
『そうだな。もっとも
激しく出血したが漆黒角の悪魔に反応はない。失神している、あるいは既に事切れているのかもしれない。
『……共喰い。
『ああ。二つの可能性を考えていた。一つは
目の前の
脇腹を
右足を
両の目玉を抉り出し、丸飲みする。耳を引き千切り――
『うああ、喰らうのを……楽しんで』
共有した視界が激しく揺れ動いていた。シャミルが恐怖で怯えている。
揺れながら映る
もし、この共喰いにより、
『シャミル、大丈夫か……? 直視に堪えないなら目を閉じていい。共有した映像で酔いそうだ。僕がそこに行くから代われ』
『……こ、これは失礼を! ただ……あれは、私には荷が重いです。実のところ、すぐにでもここを離れたいくらいで』
『わかっている。いずれにしろ今の有様ではリンゲンには入れない』
『……
『平気なものか。──不味いな、勝ち筋が全く見えないのは久々だ』
淡々と話す宗谷の表情に余裕は無かった。
戦闘開始直後から、黒眼鏡に備わっている機能である、
女神エリスの付与した
あるいは、
(エリスの付与した、
まだ、
宗谷の脳裏には、二十年前の記憶、六英雄最大の敵であった、獅子顔の
◇
崖上から監視を続けて、半刻ほど経過した。
赤黒い剣を携えた、六体の
宗谷とシャミルに何かをする手立ては無かった。
あの炎を操る赤い角の悪魔をここで逃す事は、間違いなく後々の災禍に繋がるだろう。だが、駒が足りない。……仮に駒が完全に揃っていたとして、あれほどの強大な敵を討ち果たすには、何人もの犠牲を払う必要があるかもしれない。
街に災禍をもたらした赤い角の悪魔が去り、無人の中央広場は、先程まで
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