95.崖から覗く絶望
「……煙が立ち昇る様子は無いな。それに、この辺りでも雨は降ったようだ」
道中の樹々や草花には雨露が滴り、路面も相変わらずぬかるみを見せている。昨晩の豪雨により、リンゲンの街を焼き尽くした炎は、既に消火されている可能性は高かった。
「火は消えているのでしょう。それに
シャミルの見解に対し、宗谷は同意するように頷いた。
「以前イルシュタットの討伐隊が駆け付けた時は、
(道中の
イルシュタットからリンゲンに迫る冒険者が居る事に、既に気づいているだろうと宗谷は考えていた。
山道の封鎖を突破された事に気付く、物理的手段および魔法的手段を、宗谷は二つほど頭に思い浮かべてみた。
物理的手段。飛行能力のある
魔法的手段。予め指定した物質の方角を探知する
この二つ以外にも手段はある筈である。既に察知しているという前提で考えた方が良い。
「既に悪魔たちが街から去っていれば、住民の救援活動は捗りそうですね」
シャミルの言う通り、警戒心が強い個体ならば、リスクを避けて街から撤退している可能性もある。
そうであって欲しいと宗谷は考えていた。
「そうだな。もし
「承知しました。残っているのが
「
いずれにしろ、『色付き』と対峙する事になるのであれば、簡単には行かないだろう。宗谷は気を引き締める為、大きく深呼吸をした。
◇
「……あの杉か」
道から反れた百メートル程先に、一本杉の巨木が聳え立っていた。
宗谷はハンスが書いた羊皮紙の簡易地図を広げ、地図杉の巨木を見比べた。地図によると一本杉の先は、リンゲンを見渡す事の出来る崖になっているらしい。
「間違いないかと。私も何度かリンゲンに来た事がありますが、あの辺りから街を一望出来た筈。私が猫の姿で崖まで行きます。
「シャミル。頼む」
極めて微量だが
宗谷は
黒猫に戻ったシャミルが、一本杉の先にある崖まで向かった。宗谷は杉の巨木にもたれ掛かると、視覚をシャミルの物に切り替えて、共有した。
『……これは』
映ったものは、明るい色彩を失われ、暗灰色の色調に染められたリンゲンの街の姿。
木々も、草も、花も、畑も、建物も、そして人々や動物も、何もかも徹底的に燃やし尽くされた後だった。
『これは酷い……この有様では、生存者は』
泥に塗れ、炭化して横たわる、かつて人だったものが、いくつも見える。
テレパシーによるシャミルの声には、少しばかり動揺の色を感じた。
『……シャミル。中央広場だ』
宗谷のテレパシーによる返事を受け、シャミルは街の中心部に視線を合わせ、そして驚愕した。
『
かつて中央広場だったもの。そこには、体長5メートル程の銀色の怪物が佇んでいた。白銀の肌に、山羊の頭、そして角の色は漆黒。それは宗谷が居ると想定していた、
『……索敵を続ける。もし察知されたら離脱するしかないな』
宗谷はシャミルの視界に合わせ、再び索敵を開始し始めた。
『……シャミル、あの広場に描かれた紋様は、
『……
宗谷とシャミルがテレパシーで会話をしている
新たに出現した、体長6メートルを超える
異常に筋肉が発達した上半身。巨大な四枚の翼。額に浮かぶ禍々しい三つ目。黄がかった銀の肌。動物に形容し難い裂けた口と牙。そして燃える様な深紅の角。
『……あれが、
既にリンゲンから撤退しているだろうという甘い想定は崩れた。
姿を見せた、二体の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます