79.燃え落ちる灰の下で
夕陽が西空に姿を消し、夜が訪れた。
「メリルゥくん、ありがとう。……やれやれ、まさか自爆とは」
宗谷は
「大量の炎精霊が
メリルゥは精霊力感知により、爆発の予兆を感じていたようだった。
そして
宗谷は
そういったリスクを避ける為、魔術の詠唱を破棄し、
「ソーヤ、さっき詠唱を破棄して、身を乗り出そうとしてたな。……オマエはあの爆発を間近で受けても死なないって言うのか?」
メリルゥは自らの戦果を喜ぶ事も無く、硬い表情のままで、その強い語気に、少しばかりの怒りを感じられた。
「少しはわたし達を信用しろ。……仲間を巻き込むまいと、考えての事なんだろうけどな」
宗谷は霧雨で曇った眼鏡を外すと、メリルゥの目を見た。
「……僕は君たちを侮ったわけでは無いよ。だが、そう見えたのならば申し訳ない」
宗谷はメリルゥに頭を下げた後、さらに続けた。
「……そして君の質問に答えよう。あの爆発では僕は死なない。仮に至近距離で受けて身体が爆散してもね。だから、身を呈して止める事が最適だと思った訳だ。……だが、まあ、独りよがりだったのは認めよう。……以後気を付けるよ」
「ふざけるな。馬鹿野郎」
「メリルゥくん、以前君は言ったね。優しくするなと。……君だって、そうだ。……まあ、お互い、そう言った事には慣れてないのだろうから」
宗谷は薄く笑うと、すれ違いざまにメリルゥの頭に軽く手を乗せ、そのまま、ペリトンの居る馬車の方に向けてゆっくりと歩いて行った。
◇
「ソウヤさん、メリルゥさん……御見事でした。物凄い爆発がありましたが、大丈夫でしたか?」
ぺリトンは先程行われた戦闘に、興奮さめやらぬ様子だった。
彼も
「爆発の被害を防げたのは、メリルゥくんの御蔭です。……
「ええ。しかし
実際、あの自爆攻撃には、二人以外は対応出来なかった可能性が高い。
「ソウヤさん、御疲れ様でした。……何処か怪我はしていませんか?」
ミアが
彼女も
強敵相手には通用しないだろうが、怪物に落ち着いて対応できたのは成長と言っても良い。
以前草原で襲われた野盗程度の実力なら、恐らく同じように対応が可能だろう。
「大丈夫。大した事は無い。だが、間一髪だった。メリルゥくんに感謝をしなくては」
宗谷が再びメリルゥに視線を送ると、アイシャが、丸眼鏡を霧雨で曇らせたまま、メリルゥに頭を下げていた。
「メリルゥさん、ありがとう。……あたし……あの、とても感激しました」
彼女は
「……いや。アイシャに近づかせてしまったのは、わたしの失策だ。
メリルゥがアイシャを良くフォローしていた。
彼女は体力不足という問題を抱えていたが、戦闘においては出来る限りの事をこなしたように思えた。
ただ
「タットくんもお疲れ様でした。なかなか腕が立つようで」
思ったよりも戦闘慣れしている様子で、素早く手先が器用な為か、身のこなしと武器の取り回しが非常に上手い。ただ子供のような体格故に、大きな武器を取り扱う力が無い事だけが欠点だろう。
「ソーヤ兄さん程じゃないよ。ダガーの刃が通る柔らかい敵で助かった。……それにしても、すごい爆発だったけど……何だったんだろう。特殊な魔剣だったのかな?」
タットが不思議そうに呟いた。宗谷もあの自爆攻撃に虚を突かれる形となった。
「……あれは多分、
タットの呟きに対し、メリルゥが口を挟んだ。
「
「ああ。
メリルゥが幼げな表情を歪め、吐き捨てる様に言うと、転がっている石を蹴り飛ばした。
「……他の精霊でも理論上は出来るが、ああいった暴力的な破壊を産むのは炎の精霊だけだな。かなり上位の精霊術の使い手じゃないと出来ない筈だ。……あの剣を
その話に、一つ思い当たることがあった。
宗谷は先日、ドーガの工房で、セランから聞いた話を想起していた。
「……火精霊に長けた
セランの敵である、赤い角の
「……とりあえず、出発しようぜ。雨が強まってきたな」
メリルゥが
彼女の言うように細やかな霧雨は、徐々に大きな雨粒に変わってきていた。
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