80.無人の山小屋へ
「メリルゥくん、出発の前に、僕が
「……ああ、失念してたな。ソーヤ、任せていいか?」
メリルゥは宗谷の視線に追うと、納得したように頷いた。
「ええ。僕がやります。――
宗谷は二体の
メリルゥの精霊術で作られた大穴は、時間経過により元通りに塞がっていたが、
「アイシャくん。疲れてる処すまないが、
「余裕あります。……あたしにやらせてください。山小屋でも照明係をします」
「では、その役目は君に任せよう」
アイシャが戦闘用に作り出した
雨雲により月明かりは期待できず、徐々に強まる雨と風で、
「……ふむ。処理も終わったようですし、皆さん、出発しましょう。……どんどん雨足が強まってきましたな。それに風が冷たい」
依頼人のペリトンは身震いをすると、茶色い
御者のラムスの運転により、荷馬車がゆっくりと動き出し、メリルゥが再び先頭に立ち、荷馬車の両脇にタット、アイシャ、その後ろをペリトンと、以前と同じ隊列を成して後に続いていった。
最後尾のミアが隊列に合わせて移動しようとした処、宗谷は赤い破片を手にし、それを見つめて立ち止まっていた。
「……ソウヤさん、どうかしましたか?」
不思議そうな表情を浮かべるミア。
「――いや、何でもない。ミアくん。行こうか」
それは、
◇
再出発から二十分程進み、さらに分かれ道を五分程歩いた場所に、ペリトンの言う山小屋を見つける事が出来た。
到着した頃には、雨は明確に強いと呼べるくらい大粒の物と変わり、皆が羽織っていた
山小屋は古びたみすぼらしい木造平屋で、明かりは無く、人の気配を感じなかった。
宗谷は小屋の入口へ向かうと、少し強めに木扉をノックした。
「……誰も居ないようだ。今日は僕達の貸し切りかもしれないね」
宗谷はお
玄関奥は八畳程の広さの空間になっていて、部屋の中は調度品も無く質素な物だったが、雨風凌ぎには十分な機能を果たせそうだった。隣には荷馬を停車出来る、低い屋根の馬小屋もある。ラムスは馬小屋にまで操作すると、馬車を停め、車輪に鍵をかけた。
その後、全員が小屋に入り、部屋に荷物を下ろすと、ようやく一息つく事が出来た。
戦闘や天候のアクシデントもあった為か、皆、多少の疲労の色が見える。野外で無く雨風が凌げる施設で休めるのは幸いだろう。特にアイシャは移動による肉体的な疲労が堪えていたようで、荷物を降ろすと壁際に力無くへたり込んだ。
「皆さん、御疲れ様でした。ゆっくり休んでください。……と言いたいところですが、誰かラムスと共に、馬小屋で荷馬の見張りを頼めますかな? 貴方達の中から交代で構いませんので」
「……それじゃ、オイラが行くよ。ラムスさん、よろしくね」
ペリトンの提案に対し、タットがすぐに手を挙げて即答した。
「タットくん、いいのかね?」
「ソウヤ兄さん、
タットは自分を除いた護衛メンバーが、先程の戦闘で魔法を使った事を指摘した。
「……では、お言葉に甘えて。もし何かあったら遠慮無く皆を呼んで下さい。青銅の
「……うん。わかった。それじゃ行ってくる」
タットは、玄関の扉を開け、隣にある馬小屋へ向かった。
その際、外のひんやりした空気が流れ込んできた。そして強い雨音。
今夜の天候具合の推移にもよるが、明日の移動は少しばかり骨が折れるかもしれない。
「……おい、タット。遠慮しないで呼ぶんだぞ。わたしはまだ
メリルゥはそう言いつつも、大きな
「メリルゥくんは
「……ソーヤ、あれくらいはどうって事ないぜ。
メリルゥが意地を張りつつ、自慢するように呟いた。彼女の言っている事は間違いでも無く、
負担の大きい精霊術を行使してもまだ余裕があるというのは嘘では無いだろう。
「メリルゥさん、無理は禁物ですよ。……疲れてませんか?」
意地を張るメリルゥに対し、ミアが優しく声をかけた。
「……まあ、少し疲れたかな。ミア」
「はい、構いませんよ。こっちに来てください」
メリルゥは嬉しそうに、正座するミアの膝枕に頭を乗せて横になり、毛布を被った。
その態勢でミアに頭を撫でられると、メリルゥは恍惚の表情を浮かべていた。
(……取って置きの方法か。確かに)
宗谷はメリルゥの機嫌を直す方法があると言っていたミアの言葉を思い出した。これならば効果覿面だろう。
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