75.東門から南東の山道へ
宗谷とミアは東門に向かう途中、雑貨屋で四食分の食糧を買い込むと、東門の傍にある停留所に向かった。集合時間にはまだ余裕があったが、メリルゥとアイシャも既に東門へ向かったようなので、早めに到着しておいた方が良いとの判断である。
遠くに見え始めた停留所には、既に依頼人のぺリトン、それと今回依頼を引き受けた冒険者である、メリルゥ、タット、アイシャの三人が揃っているようだった。
「あっ、ソウヤ兄さんが来た!」
宗谷とミアはタットの声に急かされる様に、やや早足で停留所まで歩いて行った。
「……ぺリトンさん、これは申し訳ない。僕たちが一番最後になってしまったようだ」
「いえいえ。……まだ9時40分。まだ集合時間の10時まで二十分程あります。……まあ、全員集合しましたし、早めに出発するとしましょうか」
ぺリトンは懐中時計で時刻を確認しつつ、予定時刻より早い出発を提案した。既に全員の準備が整っている以上、出発を早めた方が、時間に余裕が出来るのは間違いないだろう。この提案に反対する者は誰も居なかった。
「……と、出発の前に、後から来た御二人に紹介を。御者のラムスと、荷馬のアナスタシアです」
ラムスは
「ラムスさん、宗谷と申します。彼女がミア。
「はい。健康でとても落ち着いた気性の良馬です。今回も頑張ってもらわねばなりません。……道中の護衛、
ラムスは二人に挨拶を終えると、再び荷馬車の前部座席に乗り込んだ。
荷馬車は一頭立ての四輪で、簡素な木造の小型の物だったが、
「……ぺリトンさん、一つ確認を。護身術の心得は? 勿論、依頼人である貴方に戦わせることの無い様に努めるつもりですが」
「一応、旅を生業とする者です。道場で剣の修練は積みましたし、道中襲撃に巻き込まれた事も何度かあります。
ぺリトンは腰に下げた
「それは安心しました。勿論、戦闘が発生した時は僕達が対処するつもりです。ぺリトンさんは身の安全に努めて頂ければ」
得意ではないとはいえ、最低限の戦闘の心得があるという点は心強い。いざ襲撃があった時、依頼人がパニックになると、予測不可能な行動に出る可能性もある。襲撃を受けた経験があるのであれば、その点は心配無さそう思えた。
「わかりました。それでは、リンゲンの街へ出発ですな。…今日は、山道途中の山小屋を目指しましょう」
◇
イルシュタットの東門を抜け、御者のラムスが運転する荷馬車を囲うように、ぺリトンと護衛の冒険者一行は、南東の山間部にあるリンゲンの街に向けて歩みを進めた。
御者のラムスを除くと全員徒歩で、荷馬車の先頭にはメリルゥが立った。自然での危険察知能力に長け、精霊術や弓による迎撃が可能なので適任と言えるだろう。荷馬車の両サイドにはのタットとアイシャ、後ろに依頼人のぺリトン、最後尾にはミアと宗谷が付いた。
「ぺリトンさんも、荷物を背負っての徒歩なのですね」
二時間程歩き、平道から山道に差し掛かった頃、宗谷はぺリトンに声をかけた。荷馬車に乗っていくか、背負った荷物くらいは預けるものと思いきや、護衛の冒険者たちと同じように荷物を背負い、一緒に歩いていた。
「はは、
ぺリトンが小太り体型である理由は、大食いのせいらしかった。普段荷物を背負い歩いた上で、この様子では、相当な大食漢なのかもしれない。
「歩く事の大切さは僕も実感しています。……しかし山歩きは久々だな。ミアくんは山歩きは慣れているかね?」
「ええ、個人的に行く事はありませんが、依頼で訪れた事はあります。山でしか採取出来ない薬草もありますからね」
ミアはしばしば、道端に咲く野草に目を向けたりしていた。プライベートであれば、野草の採取をしたかったのかもしれない。
◇
山道の開けた場所で、昼食の為の小休止を取り、さらに歩き始めて数時間程経過した。道中特に襲撃に見舞われる事も無く、美しい夕陽が殆ど雲の無い空を赤く染め始めている。
この辺りから山道が険しくなり、宗谷は少し疲労を感じ始めていたが、まだ大分体力的には余裕がある。山道は平地とは大分勝手が違うが、それでも日頃体力作りの為の
「……アイシャお姉ちゃん、大丈夫?」
前方ではアイシャが息を切らし、足が止まりかかっていた。荷馬車ごしにタットが心配そうにしながら彼女に声をかけている。
「……ええ。タット。……平気。……はぁ……はぁ……」
アイシャがタットに返事をしたが、「平気」と言う返事自体が辛そうに見えた。両手で魔石付きの
「……アイシャさん、少し辛そうですね」
ミアが心配そうに
「……ペリトンさん、山小屋までは?」
「あと一時間弱といった処ですな。日が落ちる前には到着出来るでしょう」
「では、出発が早かった分、時間に余裕がありますね。少し小休止しては
宗谷の提言に、ぺリトンは馬車から遅れそうになっているアイシャに視線を送ると、ゆっくりと頷いた。
「ふむ。ソウヤさんがそう
ぺリトンは不安そうに
アイシャは停止命令を聞くと、気が抜けたようにその場にへたり込んだ。この様子だと限界が近かったのだろう。宗谷は朝方、途中で止めた独り言を
(朝は
宗谷がそんな事を考えながら天を仰ぐと、茜色の空に、何時の間に怪しげな分厚い雲が立ち込め始めていた。
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