63.来訪者の女
その責任を感じたのか、沈黙を破ったのは、この中で一番寡黙と思われていたセランだった。
「――陰気なスカシ野郎。で、間違いないだろう」
セランは昨夜メリルゥが吐いた陰口を交え、自嘲気味に
「……まあ、君が陰気かどうかは、ともかくとしてだ。僕にとっても重要な話だったと思う。……処でセランくん。イルシュタットには、
宗谷の質問に対し、セランは目を
「――ルギノ村の虐殺で、急遽討伐部隊を結成した時、
セランが最後の名を言いかけた丁度その時、玄関からノックの音がした。
「ドーガさん、いらっしゃいますか?」
女性の声が響いた。それは、宗谷にも耳馴染みのある、抑揚のある流暢な声だった。
「――あいつだ。ソウヤさんも良く知っているだろう」
セランが
「ふうむ……今日は来客が多いのう。小娘! 仕事は今日はしとらんぞ! それで良ければ上がってくるがいい」
ドーガの叫び声に反応したのか、玄関の扉が開く音がした後、廊下から、気配を殺したような静かな足音がした。
応接間に現れたのは、緑色のフード付き
被ったフードの隙間からは、ウェーブのかかった蜂蜜色の髪が見え隠れしていた。
「……ソウヤさん? それにセラン君まで……二人とも、知り合いだったの?」
驚きの表情をもって、応接間に姿を現したのは、冒険者ギルドの受付嬢、ルイーズだった。
◇
「ソウヤさん、どうしてドーガさんの仕事場に……」
ルイーズは、手に持ったグラスの赤
あるいは、本来ドーガの紹介状を書く役割を担ってると思われるルイーズが、紹介状を書いていない事もあるのかもしれない。
「実はドーガさんとは昔に交友があってね。ただ、今現在は仕事の制限をしてると聞いたので、念の為、ギルドの受付で紹介状を書いて貰ったんだ……ええと、彼女は何と言ったかな」
「シャーロット?」
宗谷がとぼけて名前を忘れたフリをすると、ルイーズは冒険者ギルドの第二受付嬢の名を挙げた。
「そうそう。シャーロットくんだ。……まあ、書いてもらった紹介状は全く効果的では無かったが、どうにかしてドーガさんに僕の事を思い出して貰ってね。今こうして再会祝いをしている訳だよ」
ルイーズを納得させる為、宗谷は嘘の無い説明をした。
「なるほど。そういう事でしたか。……まあ、ソウヤさん程の実力をお持ちなら、別に不思議な事では無いですね」
ルイーズは、宗谷の言い分に納得したようだった。
「……ところで小娘。何しに来たんじゃ。仕事か? 飲みか?」
ドーガの言い方は、ルイーズが時折ここに飲みに来る事があるような口ぶりだった。
「いえ……もしドーガさんの手が空いていたら、久々に武器の強化をお願いしたい。……なんて思ってましたが。この分だと仕事は無理そうですね」
ルイーズが、着用している
めくれた
「おや、私服ですか。似合いますね。……いや、失敬。盗み見て、こんな事を言うのは、良くなかったな」
「あっ……」
宗谷が目を細め、薄く微笑むと、ルイーズは恥ずかしそうに、緑色の
「これ、室内で
ドーガが呆れ顔で指摘すると、ルイーズは形相を変え、ドーガを睨みつけた。宗谷はそのやり取りに笑いそうになり、眼鏡を抑える振りをして誤魔化していた。
「……武器を預けて、もし夕方、ドーガさんの都合が付きそうなら、再度来訪して飲もうかなとは思ってました。今日はオフなので」
オフが急遽なのか予定された物なのかは定かでないが、今日は冒険者ギルドの受付には、第二受付嬢のシャーロットが入っている。
「ルイーズ、仕事の依頼はともかく、酒は冒険者の酒場で飲めばいいだろう。アンタは近くに自宅だってあるのに、何でわざわざドーガ爺さんの処に」
セランがルイーズに対し、呆れたように呟いた。
「あのねえ、セラン君。そういう訳にはいかないの……人目があるんだから。受付嬢のイメージを大事にしないと。それに貴方達だってドーガさんの仕事場で、こんな日が高い内から飲んで、人の事言えますか?」
ルイーズが、セランに反論する形で
「……いや、それについては申し訳ない。セランくんも、ルイーズさんも、今日はドーガさんに依頼する為に来たのでしょう。折角の予定を再会の宴で潰してしまって。まあ、僕もドーガさんへの依頼が本来の目的でしたが」
旧友との二十年振りの再会やら、
「おお、そうじゃったな……ソーヤ、どんな武器を使いたいんじゃ?」
「片刃の
「ふむ……少し待っとれ」
ドーガが応接間のテーブルから席を外し、数十秒後すると、一本の剣を手に取って戻って来た。
そして鞘から刀身を抜くと、美しく輝く刃を見せた。
「貴重な
「……ドーガさん、すまないが、僕はそんなお金は持っていない。金欠気味なんだ。前途ある若者に気前良くし過ぎてね」
宗谷は、お手上げといったように肩を
「……今日の酒瓶代で、無期限の貸しにしておく。じゃが当然紛失したら弁償じゃ。お主は魔術で道具をしまえるから盗難も心配いらんし、
銀貨120枚分の高級ウィスキーで、銀貨5万以上する
「……あら、良い剣。
ルイーズは赤
宗谷はその光景に、
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