62.赤い角の悪魔
深刻そうな表情を浮かべているドーガは、白い髭を撫でたまま沈黙し、セランに視線を向けていた。彼はどうやらセランの口から
二人の視線を受け、セランは目を閉じ、手に持ったロックのウィスキーを一気に呷ると、氷だけになったグラスをテーブルに置き、大きな溜息を
そして、話す決心がついたのか、セランは宗谷の方に向き直った。
「――ソウヤさん。俺は
「セランくん、その事は想像がつくよ。昨夜、僕達が討伐した
宗谷は昨夜の宴の出来事を思い出しながら、セランに返事をした。
「――その事は本当に済まなかった。宴の最中なのだから、後日聞きに行くべきだったが、居ても立ってもいられなくてな。ソウヤさんが討伐したのは、俺が長年追っていた
セランの言葉を聞き、宗谷は今までの白銀の
宗谷は先日、古砦で討伐した四つ腕の
「昨日の事については、構わないと言った筈だよ。しかし
宗谷は、セランに
いずれにしても、
宗谷の問いに対し、セランは暫しの間、
言い辛い事なのだろう。宗谷はその反応から何となく彼の目的を察した。
「セランくん。語り辛い事であれば、僕は無理して聞こうとまでは思わないが」
宗谷は難しそうな表情の彼に対し、両手を広げて見せて止めようとした。
だが、特に言いたくないわけではなかったのか、セランは宗谷の静止に対し首を振ると、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「――北方の雪原地帯にある、フェルトームという名の街。それが俺の故郷だ」
宗谷はセランが呟いた街に訪れた事は無かったが、フェルトームという名前だけは聞き覚えがあった。
故郷の名を告げた彼は、さらに続けた。
「――八年前、故郷の全てを
白い髪の青年は静かに、そして
思えばその理由は何となく予測出来た事ではあった。
目の前にいるセランという青年が、物欲の為に
昨晩、宗谷が取り出した
「……小僧が言うには、
ドーガが困ったように呟いた。
賢い個体は、こないだの四つ腕のように、高度な魔術を行使する個体も存在した。
「奴はイルシュタット近辺で、二度確認されている。八カ月ほど前、イルシュタットから南西に三日程の場所にある、ルギノと呼ばれる村が焼き尽くされ、逃げ
セランが淡々とした口調で、
「セランくんが、今現在イルシュタットに居る理由ですね」
「ああ。勿論、既にこの周辺から離れて居ない可能性もあるが。新たな目撃情報が入るまでは、この街に留まるつもりだ」
セランとドーガの話から、
「セランくん、一つだけ確認したい。フェルトームの街が焼かれた時、君はその場に居て、
宗谷の質問に対し、セランは目を見開き、身体を少しばかり震わせていた。
その様子を見て、彼にとって辛い質問だったのかもしれないと宗谷は思った。
だが、虐殺の現場を目にしたのであれば、その事は共有する情報として価値があるだろう。宗谷は沈黙したまま、セランの返事を待った。
「――ああ。俺は
セランは自らを卑下するように、自嘲気味に笑った。
八年前、セランにどれ程の剣術や精霊術の力量があったかは不明だが、
辛い選択ではあると思うが、現実的に言えばむしろ最良の選択の筈である。
「――
炎の精霊術を極めた者のみが行使する、上位精霊まで扱うのであれば、それは恐るべき存在の証明であった。
こないだ宗谷が対峙した、魔術と暗黒術を行使する四つ腕の
「――大切な者を失ってしまった。
淡々と話すセランの台詞からは、妹を失った事に対する後悔の念が含まれていた。
肉親の仇。この事が
「……この辺でいいじゃろう。小僧、済まなかったのう。じゃが、
ドーガは、落ち込んだように
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