51.黒いロングコートの男
宗谷はテーブルの前に現れた、黒いロングコートの男を観察した。やや青みがかった白い髪の青年で、無表情の中で揺れる
(手強そうだな。雰囲気的にルイーズさんに似てる)
宗谷は見た目から感じた雰囲気と、第一声の印象から、目の前に立っている黒いロングコートの男をそう評した。
「……おい、セラン。こっちは宴の最中なんだ。時と場所を選べよ」
メリルゥが少し酔っているのか、不満そうに、黒いロングコートの男を見上げて睨みつけた。彼女の言う「セラン」という単語は、おそらく黒いロングコートの彼の名前だろう。
「メリルゥか、久しぶりだな。――宴の最中に水を差したのは悪かったよ。要件が済んだらすぐ退散する」
セランと呼ばれた黒いロングコートの男は、メリルゥを一瞥して薄く笑うと、再び宗谷の方を見た。
「俺はセラン。――貴方は多分、俺の事は知らないだろう」
「申し訳ない。イルシュタット自体、久々に来訪したものでね。街の情報そのものに疎いのですよ」
「やはりな。
セランは宗谷の事を、ある程度調査済みのようだった。
「既に御存知のようですが、僕は宗谷と言います。……セランくんと言ったね。メリルゥくんの言う通り、宴の最中なので、もし冒険に関わる話なら」
「――ソウヤさん。貴方が討伐した
宗谷の言葉を遮るように、セランはやや強い口調で質問した。是が非でも答えて貰うと言わんばかりの、
赤い角の
「……いいえ。
宗谷は
すると
「――要件は済んだ。ソウヤさん、悪かったな」
無表情に戻ったセランは、ロングコートのポケットから、三枚の金貨を取り出し、宗谷たちの居るテーブルの上に置いた。
「セランくん。赤い角に何か?」
「――いや。これ以上、宴の邪魔をすると、そこの酔いどれエルフに怒鳴られそうだ。退散させて貰う」
セランは身を翻すと、宗谷たち三人の座るテーブルの傍から、ゆっくりと立ち去って行った。
「ちっ……相変わらず、陰気なスカし野郎だ。飯が不味くなる」
メリルゥは舌打ちし、テーブルに置かれた三枚の金貨に手を伸ばすと、一枚をポケットにねじ込み、残りの二枚を、それぞれ宗谷とミアのテーブルの前に置いた。
「あの、メリルゥさん……これ、貰っていいのでしょうか?」
「いいんだよ。情報料と迷惑料のつもりなんだろ。確かセランは
手に取った金貨を眺めながら困惑するミアに対し、メリルゥは適当に返事をすると、ジョッキに入った赤
メリルゥ
『……なんだなんだ。面白い事になると思ったのに。終わりか』
『セランさん、相変わらずクールで素敵だわ。彼女は居るのかしら?』
『二人の
セランが去った後、好き勝手な事を呟く酒場の客の声に、宗谷が耳を向けると、その中に興味をひくものがあった。
(――二人の
宗谷は思わずセランが立ち去った方を振り向いたが、彼は既に冒険者の酒場を後にしたようだった。
「んだよー、ソーヤ。あいつに興味があるのかー?」
メリルゥは、一人前のハーブ焼きの若鶏を平らげ、既に二皿目に手を付けていた。そしていつの間に二杯目の赤
「メリルゥくん、ペースが早いね」
「ひひ……飲み比べなら、負けないぜ。わたしは
「飲み比べで
心配そうに様子を見ているミアに、宗谷はメリルゥを頼んでみる事にした。酔いが回って上機嫌の彼女を、一人きりにしておくのは少し危険かもしれない。
「わかりました、ソウヤさん。メリルゥさんの事は、私にお任せ下さい」
「……ん? ミア、なんだ? 私とルームシェアするのか? このさびしんぼめー」
メリルゥが、急にけらけら笑うと、隣の席に居たミアに抱き着いた。
「きゃあ! メ、メリルゥさん……大丈夫ですか?」
「うーん……うううううぅぅ……」
ミアは抱き着いてきたメリルゥの背中をさすった。メリルゥは少し気分が悪くなったのか、唸ったまま、中々起き上がろうとしなかった。
その様子を見ていた宗谷は、ウェイトレスを呼び出し、メリルゥの酔い醒ましの為に、オレンジジュースを注文した。宴が終わった後で、先程テーブルの前に現れたセランの事を彼女に聞こうと思ったが、この調子だと難しいかもしれない。
「……ミアくん。こういった事で、神の力を借りるのは本当は良くないと思いますが。もしメリルゥくんの酩酊が、あまりにも酷いようなら、
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