48.魔将殺しの名声
受付嬢のルイーズから
「お前らなぁ……これから宴会なんだよ。しっしっ、どっかいけよ」
酒場に入ると、メリルゥの声が聞こえた。喧嘩腰の言葉からして、何か揉め事だろうか? 宗谷が声のする方に視線を向けると、壁際のテーブル席に居るメリルゥとミアの傍に、冒険者と思わしき二人の男が立っていた。
「メリルゥさん、随分つれない態度だな。宴会というなら、これから一緒にどうだろうか? 俺たちもさっき冒険を終えたばかりなんだ」
「そうそう。二対二なら丁度いい。ミアちゃん、メリルゥちゃん、今後の話も含めて、食事でもしながらさ」
一人は
「……おい、ミア、言ってやれ。お前らみたいなチャラい奴らは、私の趣味じゃないって」
メリルゥは、黙って見ているミアに言葉を促した。
「……あのですね、折角のお誘いですが、これから」
「ミアちゃん、僕達は君のような
魔術師風の優男は、先手を取るようにミアの言葉を遮ると、ウインクをしながら、ミアの両手を握った。
「ミアちゃん、今、フリーなんでしょ? それとも、メリルゥちゃんとコンビなのかな?」
「えっ……あの、私は……」
ミアは何か言いかけたが、言葉を途切らせ、うつむいて押し黙ってしまった。宗谷は、テーブルの会話が一区切りするのを待つつもりだったが、男の態度が徐々にエスカレートしているのを見て、割って入ったほうが良さそうだと判断した。
「……ミアくん、メリルゥくん、待たせたね。遅くなって申し訳ない」
宗谷はわざとらしく手を上げながら、ミアとメリルゥが居る、テーブルの方に歩み寄った。
「あっ、ソウヤさん」
「ソウヤ……? なになに、ミアちゃんの知り合い?」
優位に進めていた話の腰を折られ、魔術師風の優男は、あからさまに不愉快そうな口調だった。
その時、ソウヤという名前に反応したのか、酒場内が少し騒めいた。
「ん……ソウヤだって? ……あの
「あいつかソウヤ……そう言われてみると、どこか雰囲気がある」
「へぇ……彼が。後でサインでもお願いしてみようかしら?」
宗谷に対し、酒場にいる客の視線が注がれた。続けて、誰かの口笛の音。
この二人組は冒険から帰ったばかりで、
(やれやれ。……だから、良い事ばかりではないと言ったのだ。面倒な)
宗谷は、辺りに聞こえないくらいの小さな舌打ちをし、眼鏡に手を当て嘆息した。現実世界で、部長補佐の昇進を固辞し続けた事を思い出した。宗谷の順調な昇進に対し、先輩から恨みを買った事もあった。面倒ごとが増えると、とにかくストレスが溜まる。それは自己顕示欲というちっぽけな物に対して全く帳尻が合わない。
「……ちぇっ、なんだ。……
魔術師風の優男は、両手を大袈裟に広げ、降参のポーズを取ると、そそくさとテーブルから退散した。
「おいおい……待ってくれ。
「ちっ……ソーヤ、遅かったじゃないか。どこで油売ってやがったんだ」
メリルゥは、余程二人組の男にイラついたのか、近づかれた原因と言えなくもない、宗谷の遅参を叱責した。
「すまなかった。少しルイーズさんと話し込んでしまってね。……ところで、先程の御二方は、知り合いかね?」
「わたしは知らないよ。その割に、やけに馴れ馴れしい、軽薄そうなヤツらだったが……まあ、態度からして、ミア目当てだろ」
メリルゥが恨みがましくミアを睨むと、ミアは申し訳なさそうに、ぎこちなく笑う。こうは言っているが、戦士風の男はメリルゥに対して、ちょっかいを出していたようにも見えた。それぞれが、ターゲットを決めていたのかもしれない。
「ごめんなさい。彼らについては私もよく知りません。……専業の
「……
メリルゥがジト目で、ミアの育った胸を凝視すると、視線に気づいたミアは、慌てて身体を両手で抑えた。
「しかし、ソーヤもすっかり有名人だな。
「あまり言いふらしたりしないで貰いたいね。それにメリルゥくん。君だって、それを名乗る権利はあったのだから」
「そんな不相応な称号はいらない。あの中で名乗っていいのはソーヤくらいだ。諦めろ」
メリルゥとミアも、
実力不相応の称号は、メリットよりデメリットが大きいと判断した為だった。宗谷も辞退したかったが、冒険者ギルドの意向として、パーティーの誰かしら最大貢献者に、称号を付与したいという意向から、満場一致で宗谷に決まった。彼一人で成し遂げた訳ではないとはいえ、一人与えるとしたら彼を置いて他も無いだろう。
「まあ、仕方ありませんね。……ところで、もう
宗谷は着席すると、いつもより息苦しく感じた、スーツのネクタイを少しばかり緩めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます