第4章 地妖精と来訪者達
47.青銅級の冒険者証
宗谷たちが引き受けた古砦の救援依頼は、後味の悪い結末を迎えてしまったが、それでも冒険の旅からの帰還を祝い、宗谷、ミア、メリルゥの三人は冒険者の酒場で、ささやかな宴を開く事にした。
「暗くなるのは止そうぜ。それが世を去った冒険者達への礼儀って奴だよ。……そういえば、ソーヤ、お前、
冒険者の酒場の前で、
「ええ。昨日、報酬を受け取った時に
宗谷はメリルゥの質問に返答をした。彼はこの世界では基本見る事の無い
二つの依頼を達成した宗谷は
ただ、
「それじゃ、ソーヤの
「……あ、はい。メリルゥさん、ありがとうございます。御馳走になりますね」
メリルゥに御礼の返事をしたミアは、何処か憂うような表情で、長く煌びやかな金髪を微風になびかせたまま、うつむき加減で考え事をしていた。もし両手を組んでいたら、純白の
「冒険者ギルドはすぐ隣だし、今すぐ冒険者証を受け取りに行ってくるとしよう。御二人は先に席を確保して下さい」
宗谷はミアとメリルゥに一旦別れを告げると、一人、冒険者ギルドへ足を運んだ。
宗谷が冒険者ギルドに訪れると、ギルドの受付嬢、ルイーズが待っていた。
「……ソウヤさん。こんにちは。
ルイーズは、宗谷に出来上がっていた
「おめでとう。という割には、随分と浮かない顔だね」
「……ごめんなさい。私はこういった事に、動じない人間だと思ってたのだけど。……全然駄目ですね」
ルイーズは薄く笑うと、うつむいた。彼女の手配した依頼で、
イルシュタット支部で期待されていた新鋭パーティーだったという事もあり、責任を強く感じているのだろう。あるいはギルド内部で、彼女が依頼を捌いた事に対する、突き上げがあったのかもしれない。普段の明るい彼女を知る宗谷から見ると、落ち込み様は少し深刻に思えた。
「らしくないですね。ルイーズさん、貴方は
「……ソウヤさん」
「長く冒険を続ければ、死に直結する理不尽に一度や二度は必ず直面する。……その理不尽をいかに回避するかという事も、冒険者の資質という物。それは貴方が一番良くわかってる筈だ」
「でも、私が決めた事が、この結果を……」
「貴方のせいではない。それを言いたかった。もしかしたら、誰かに何かを言われたのかもしれないが、それは結果論という物だ」
宗谷の強い言葉に、ルイーズはうつむいて暫し沈黙していたが、やがて口を開いた。
「……ソウヤさんが、
「僕一人で何とかなった訳ではない。皆の力を合わせた結果だよ」
「でも、それでも、殆ど一人で討ち果たしたと聞きました。……ミアも、メリルゥも、トーマスくん達も、私の判断で、みんな死なせてしまうところだった。ソウヤさん……とても感謝しています」
お辞儀をする、虚ろげなルイーズの瞳が、少し潤んでいるように見えた。彼女を見た第一印象は、タフでしたたかな女性だったが、やはり今回の件は、相当に堪えているようだった。
「
「僕の能力は、他人に誇示出来るような物では無い。こうやって今、生き長らえているのも、
宗谷は、女神エリスの祝福による蘇生を思い出して、目を閉じ首を横に振った。あのような奇跡の力が、今回死んでいった者達にも備わっていたらと思うと、若干、
「それでは、ルイーズさん。僕がこなせそうな仕事があれば、またお願いします。……今回の件は、不運が重なったイレギュラーな物でしょう。僕は今後も、貴方を全面的に信頼しています」
宗谷はルイーズに微笑むと、身を翻して、ギルドの入口に向けて歩き出した。
「あの……ソウヤさん」
ギルドから立ち去ろうとする宗谷を、ルイーズが呼び止めた。
「剣の相手なら申し訳ないが、遠慮願いたい。きっと貴方の方が腕が立つ」
「違うんです。あのですね……もし……」
宗谷が振り向くと、ルイーズと目があった。ルイーズは一瞬硬直し、顔を真っ赤にすると、慌てて両手で顔を抑えた。
「どうかしましたか?」
「……いえ、なんでも。今日は……調子が狂うわね…………あの、ソウヤさん、また会いましょう」
ルイーズは顔から手を退けると、取り澄ました表情で、いつものように微笑みながら、宗谷に別れを告げた。励ましの言葉で、多少元気が戻っただろうか? 剣の達人で、何時も隙のない構えを見せているルイーズが、今日は隙だらけのように宗谷は感じた。
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