34.不安と暗転
前回の冒険を終え、宗谷が焼失した
「分数はわかりました……ですが、分数分の分数? ……頭がこんがらがりますね」
「一番上と一番下の値を掛けて上に。上下挟まれた値を掛けて下に。とりあえず、今はそう覚えればいい」
ミアが問題につっかえるたびに、宗谷は的確に説明を入れた。ここに居る理由は、勉強の指導がてら、次の依頼に備える為でもあったが、宗谷とミアの二人がこなせそうな依頼はなかなか入ってこなかった。
「さて、今日はここまで。……これからお勤めかね?」
「はい。
「熱心だね。頭が下がる思いだ。僕は不真面目だから、とても、ミアくんのような真似は出来ない」
「不真面目なんてそんな事ないですよ。……それにソウヤさんの良さは、他にもあると思います。今日はありがとうございました。……それでは行ってきます」
ミアは傍らに置いた
(ミアくんは神殿勤めがあるから、冒険が無くても生活する分には困らないわけだ。そういえば、メリルゥくんも、オカリナの演奏で生活費を稼いでると言ってたな。僕は魔術を使って……という訳にはいかないのだが)
この世界には
営利目的ではない、個人的な使用に対してまでは追求はしないが、例えば
冒険者ギルドとも密接な提携関係にあり、魔術師ギルドでブラックリスト入りする事は、冒険者としての立場も相当危うくなりかねない。
宗谷が受付まで移動すると、受付嬢のルイーズが、カウンターで頬杖をつきながら専門書を読んでいた。受付嬢兼仲介役の仕事は、忙しい時と退屈な時の緩急が激しいようであった。
「あら……ソウヤさん。ミアの勉強はどう? 捗ってるかしら」
「お疲れ様です。ミアくんは賢いですよ。ただ、今まで学ぶ機会に恵まれていなかったようだ」
「へえ。では、一ヶ月もすれば賢いミアが見れるかしら。……ソウヤさん、座りませんか? あと少しの間は暇してます」
ルイーズの誘いに乗って、宗谷はカウンターの傍にある椅子に腰を掛けた。対面のルイーズは、退屈そうに頬杖をついている時ですら、相変わらず隙が見当たらなかった。
「ソウヤさんってどこで知識を学んだんですか。かなり高度な数学を理解してるみたいですが、魔術師ギルドには属してないのでしょう?」
「独学ですよ。……ええ、魔術師ギルドに所属してた方が良い事もあるのでしょうが、入会費が高すぎますね」
「まあね、確かに。……それに魔術師ギルドは
ルイーズは失言とばかりに、手のひらで口を抑える仕草をした。ルイーズの言う通り、魔術師ギルドが設立している
二十年前、
「そういえば、ルイーズさんは
「……あら、誰から聞いたのかしら?」
「ミアくんから。なので勝負しましょう。といった話はお断りします。僕も怪我はしたくないので」
「……機会があったら、戦う姿だけでも見せてください。とても気になっているので。冒険者の未練……無くはないです。ただ、今の仕事の方が断然遣り甲斐があるわ。依頼の仲介は、過去の経験による知識を十二分に活かしてこそ、務まる仕事と自負してます」
彼女が
「後は、冒険者の頃は褒められても、強いとか勇ましい怖いとか鬼とか。……失礼なのもいくつか。今の方が楽しいですよ、綺麗ですねって言われたりするのは。まあ、怖いって言われることも相変わらずありますが」
「なるほど。冒険者の身なりでも、ルイーズさんは綺麗だと僕は思いますがね」
「あら、御世辞でも嬉しいです。ご覧になりますか?」
ルイーズは蜂蜜色の髪を揺らし、妖艶に微笑んだ。ご覧になりますという事は、恐らくは剣の試合の誘いだろうか。
「――大分旅の疲れが取れたので、そろそろ次に向けて動きたい所です。僕達がこなせる依頼は無いでしょうか」
「……えーーっとですね………二人かつ、一人は
真顔で話題をかわす宗谷に、ルイーズは釈然としない様子だったが、すぐに仲介役の仕事として対応し、宗谷に仲間の増員を勧めてきた。
「……今の所は。こう見えて人見知りなので。まあ、急いては事を仕損じると言いますし、のんびり行くつもりですが。……と、こんな事を言っておいて、聞くのもなんですが、僕の
「依頼内容次第では次にでも卒業です。明確に
確かに
「……そういえば、
ルイーズが不安そうな表情を浮かべていた。依頼の仲介役として責任を感じているのあろう。
「ランディくんは
宗谷も、四日前会った勇者ランディと
彼は少し身勝手な面がある自信家だったが、話を聞く限り勇者としての実力は確かで、
――その時、ギルドの入口の戸が、ゆっくりと軋むように開いた。
その半端加減に、ルイーズが不審に思い、目を向け―――そして絶句した。
「…………ルイーズさん。すまない。……大変な事になった」
冒険者ギルドの玄関から現れ、力なく呟いたのは、
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