20.満月の夜と森妖精
「……ふん。
とても不機嫌そうな表情だが、ジト目気味の眼が彼女をそのように見せているのか、野営の邪魔をされて本当に不機嫌なのか、宗谷には判断がつかなかった。
「君が用意した火なのに勝手に当たって悪かったね。
宗谷は
「メリルゥ」
「メリルゥ。可憐な名前だね。さきほど名乗ったとおり、僕は宗谷という。この格好だが一応
「
「御名答。声をかけるのが遅れたのは悪かったよ。僕たちも周囲を警戒する必要があった」
「あの、私は
「オマエ、
メリルゥはミアの方を振り向いて、何かを言おうとしたが、途中で言葉を止め、首を振った。
「……メリルゥさん、どうかしましたか?」
「なんでもない。それより、わたしも冒険者なんだ、一応な。……まあ、もう半年近くは、ほとんどこの森で生活してるから、冒険なんてしてないけどな」
メリルゥは地面に置いてある大型の
「……おや。
「なんだ、オマエたちは、これより下なのか」
冒険者
ミアもメリルゥと同じように肩掛け鞄から
「私は
「ああ。わたしが
二人の様子を見て宗谷は渋い顔をすると、胸ポケットから
「ミアくん、君がそれを見せてしまうと、僕も出さないといけない流れになってしまうな」
「……ああ、なんだ、そっちのオジサンは
「今回が初めての冒険でね。メリルゥ先輩、お手柔らかに」
(まあ、警戒を解く意味では、良かったかもしれないな)
宗谷がそんな事を考えていると、突如、風が吹き、摘まんでいた
「しまった」
宗谷は片手を伸ばして、冒険者証を掴もうとするが、ひらりとかわされ、風に舞った宗谷の
「やれやれ。やってしまったかね」
宗谷は知った事ではないと言わんばかりに、肩をすくめた。
「ソウヤさん、ルイーズさんに怒られますよ」
「まあ、
その様子を見ていたメリルゥが、にやにや笑っている。
「おー、オジサン、やっちまったな。あそこのギルドの受付の姉ちゃん、おっかねえだろ。……まあ、なんだ。飯でも食わねえか。少し余分にあるから」
夜が更けて、少しばかりひんやりとした冷気が漂い、三人は焚き火を囲い暖を取った。
メリルゥが空いた食器に鍋に入っていたスープを掬い、宗谷とミアに渡した。
「ほらよ。口に合わなくても文句はナシな」
「どうもありがとう。遠慮なく頂こう」
「メリルゥさん、頂きます」
渡されたスープは野草と鳥肉入りで、時間をかけて丁寧に
良く火が通り、柔らかくなった鶏肉が良い
「手が込んでいるね。とても気に入った」
「メリルゥさん、とても美味しいです」
「ん。……まあ、それほどでもあるがな」
メリルゥは二人に褒められて、少し照れたような態度を見せた。
「……そういや、オマエたち、何しにスレイルの森に来たんだ?」
「ああ。僕達は、ナイトグラスの採集にね。夜に仄かな魔法の明かりを放つ野草なんだが、メリルゥくんは、知ってるかね?」
「ソーヤ、わたしは
メリルゥは何か思案していた。俯き加減で、沈んだような暗い表情。
「故郷でも思い出して、
「違えよ。ちょっとな……なあ、オマエたち、もし良かったら」
――メリルゥが何かを言いかけた、その刹那。
『アオオオオオオオオオオォォォォォォォン』
空間を切り裂くような、獣の遠吠えが響いた。続けて、複数の足音。地を蹴る音は軽快に、そして段々と近づいてきている。
「……おや。美味しそうな匂いに釣られたか」
「オオカミだな。普段なら大した事ないんだが、今日は満月の夜だ。これは、ちょっとばかり苦労するかもしれないぜ」
傍に置いた
「満月……月齢の影響を受けるんですか?」
「そういう特殊な狼も居る。ミアくん、焚き火から離れないように」
宗谷はスープの皿を地面に置くと、近場に落ちていた石塊を拾い上げ、ゆっくりと立ち上がった。
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