Refrain♯10

「さあ、急いで」


わたしたちは基地内部の『兵士』たちからは侵入したって認識すら持たれてないの。

だって、センサーを通り抜けるはずがないって前提だから。

わたしたちは『最初からいた』ってことになるのね。


だから、『オーディエンス』が寄ってきても無視して楽器のセッティングを続けたわ。


「嫌な感覚ね」

「イサキ、そう言わないで? この子ら最新の『AI兵器』なんだから」


そう。

この基地に人間はいない。


いるのは『人を殺す』目的に特化した

AI搭載のマシンたち。

ロボットですらないのよ。

単に丸い球体が自分で判断して敵にぶつかって殺す兵器。

棒状で槍のように自分が飛んでいって相手を貫いたり回転して殺す兵器。


こういう『物体』に殺されていった大勢のひとたち。


『死ねば同じこと』


そういう最悪のセンスを持った研究者が作った兵器ね。


わたしは知ってるわ。


ずっと昔の『武士』っていう人種はね、自分の死も相手の死も、悩みに悩み抜いて最大限の敬意を払って厳粛さを貫いたのよ。

だから、基本、人を殺そうとしなかったの。戦場いくさばで元服したての若武者を見れば、惜しんで敵でも生かそうとしたのよ。


わたしはこのAIたちが悪いとは思わない。

でも、愚母研究者のせいで生まれてしまった以上、わたしの義務はこの子たちAIを静かに消してあげること。


「さ、チューニングして。それでね、このエフェクターを使うわよ」


みんなコンパクトなそれを覗き込んだわ。


「芸術だね・・・」


ふふ。ロック。ギタリストのあなたなら分かるわよね。


このエフェクターはずっと昔の偉大なギタリストたちが愛してやまなかった名器。


このエフェクターでわたしたちの音をハウリン・シャウトさせるのよ!


「チューニング、念入りに・・・わたしの声に合わせてね」


ララ、とわたしが音階を刻んでみせるとみんな真剣な顔でそれを追っかけてくれたわ。


「メル、こんなに高く?」

「そう。だって、この子たちAIに聴かせるんだから」


でも残念ね。

最後のステージに人間のオーディエンスが1人もいないなんて。

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