Refrain♯9

先端技術ってね。

ぐるりと一周して退化してるのよ。

知ってた?


「メル、ほんとに大丈夫なの?」

「イサキ、安心して。カーボンとアルミ合金でできたこの精悍で可愛らしいマシンはね、魔法でもってすり抜けられるのよ」


あらあら。

みんな怖がっちゃって。

ならわたしがお手本見せるしかないわね。


「見てて。これぐらいのスピードなら行けるから」


わたしはメタリックブルーのクロスバイクのペダルをゆっくりと回転させて、基地に背を向けて進んだわ。

そのままゆっくりターンして今度は基地の方に向き直るの。

そしてね。


「じゃあ、行くわね!」


全力でペダルを回転させたのよ!


トゥーストラップがあるから、漕ぐ力と引き上げる力両方全力よ!


「メ、メル・・・・」


みんなが祈ってるのを背中に感じるわ。

さあ、最高速で・・・


「おおーっ!」


ふふ。こんなもんね。


わたしはあっさりと軍の基地外周に張り巡られたセンサーを通り抜けたわ。


「なー、メルー! どうしてセンサーに引っかからないのさー!?」

「クロスバイクは先端技術だからよー!」


一応あとで解説してあげたわ。


カーボンとアルミ合金で作り上げられた‘削ぎ落とし’の美学、クロスバイク。

‘自転車’の名の通り、原動力は‘人間’よ。

エンジンもモーターもない究極の‘永久サイクル機関’だわ!


そしてね、軍の基地なんて要はありきたりのモバイル・ビークルやらステルス・ドローンやらを捕捉するためだけのセンサーやレーダーばっかり追い求めてきたのよ。


わたしに言わせれば賢くない。

脳軟化してるわ。


逆にこの時代、誰も乗らないクロスバイクを作り続けてたビルダーは天才よ。そしてそれを選んだカセも。

まあ、これしかなかった、ってことかもだけどね。


「みんなー、全力よー! ゆっくりだとさすがにセンサー誤魔化せないからねー!」


あらあら。

みんなやる気満々ね。

あんなに助走距離とっちゃって。


「行くよっ!」


ロック、頑張って。

わたし、あなたが好きよ。

他のみんなも好き。


だからこんなところで終わらないでね。


「く・く・・・」


みんな自分の脚力で生み出した風圧で髪をなびかせてる。

ネマロ自慢のアフロヘアーも台無しだわね。


シャーッ!!


ああ、いい音。

細さを極めたタイヤとアスファルトの摩擦音。


おめでとう、関門突破よ!


「ふうー、緊張したー」

「ねえメル。もしセンサーに引っかかってたら?」

「さあ? 試してみる?」


わたしはさっきのギグで潰したマイクをゆっくりと投げて放物線を描かせたわ。


ジャッ!


瞬時に熱線が何千本と連なった『壁』ができてマイクが蒸発したのよ。


「・・・・・・」

「みんな、安心して。帰りはフリーパスの予定だから」


そう。

基地を『産業廃棄物』にするのよ。

わたしたちしかできない方法でね。


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