Refrain♯7

メタリック・ブルーのクロスバイクでこの街を駆け抜ける。

そして武装した政府軍とのギリギリのラン&チェイス。


それだけで歌になりそうでしょ?


でもね。何番目かの会場でわたしはかつてない難問に直面したのよ。


「演歌、歌ってくれないか」


え。


「演歌、ですか? ブルースじゃなくて?」

「演歌さ」


バンド全員で顔を見合わせて、うーん、と唸ったわ。


ウエーブがかった髪質の男の人は、オーディエンスにリクエストを振ったら、無言で真っ直ぐに手を挙げてくれたのよ。


「息子は俺の跡を継いで漁師になった。領海に侵入してきた外国籍の不審船を軍が追尾してる海域に息子の船が偶然居合わせたのさ。威嚇射撃が逸れて息子が被弾した」


彼は、深く息を吐いたのよ。


「即死だったそうだ。わがままを聞いてもらえるのなら、何か、演歌を。海のやつを」

「でもなあ・・・」


みんなが躊躇する気持ちも分かるわ。

でも、わたしはこう思うの 。


「ねえ、みんな。『ロック』って、音楽のスタイルのことかしら?」


わたしはみんなを真剣に見つめた。

そのまま語り続けたわ。


「『ロック』って、人が生きるその志向。わたしはこの人の願いはロックだと思う。演歌っていうスタイルだとしても」

「でも、わたしたちには演歌のスキルがないよ」

「ふふ。大丈夫」


ぐっ、と握り拳を胸の辺りに立ててわたしは話し続ける。


「演歌の曲展開はドラマティック。つまりは交響曲なのよ。それに、かつて、オペラやクラシックを取り入れた素晴らしい曲を作った伝説的なロックバンドがいくつもいたわ」

「そ、そうなの?」


あら、わたしだけが知ってる『史実』だったわ。あぶないあぶない・・・


「とにかく、イサキ、バスドラとタムを上手く使って表現して」

「了解」

「残りのみんなはR&Bのコードとメロのイメージで」

「メルは?」

「ふふ。『ソウル・ミュージック』のつもりで歌うわ」


オーディエンスに一瞬の静寂。


「さあみんな。魂込めてね」


ああ、素敵。

イサキは打楽器に関しては天賦の才を授かってるわ。

ほかのみんなも即興にしてはいい感じよ。

ん、ぱ、ぱ、ぱん・ぱん・ぱーん、さんしい・・・!


わたしの思い切りコブシを効かせたソウルフルな声。

オーディエンスが囁きあってる。


『すげ・・・』

『ああ・・・あんなか細い体からどうやってこんな音圧の声が出んだよ』


あら。お褒めいただき光栄よ。

なら、もっと出すわよ!


演歌でグルーヴする。


これも、ロックよ!

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