Refrain♯6
「こんなんしかなかったのかよ!?」
あらあら。ネマロが怒ってるわ。
「ごめんねー。燃料もバッテリーも全部政府軍に徴用されちゃってるから」
「カセ。わたしは好きよ。風が気持ちいいわ」
「ありがとう、メル」
カセが用意してくれたのはクロスバイク。5人お揃いのメタリック・ブルー。とても美しい自転車だわ。究極のエコだし。
わたしたちはそれぞれの楽器を、まるで武器みたいに背負い、この美しいメタリック・ブルーのマシンで疾走したわ。
まもなく戦場になろうとしているこの街の、まだ滑らかなアスファルトの上を。
カナタさんは各事業所に1台配給されたバギーで移動。わたしたちのギグの場所と移動ルートを先導してくれる。
「みんな、カナタさんから最初のポイントの連絡よ。f.u.c.....『Fuckin’ Gun』?」
「はは。公営射的場かよ」
路地を鋭角に、キ・キ、と音を立ててターンすると、カナタさんのバギーが目の前を通り過ぎるところだった。
わたしたちはタイヤを軋ませて疾駆するバギーのスリップ・ストリームに入り、瞬間的に80km/h近い速度でそのまま最初のギグ地点に滑り込んだの。
「気をつけて」
カナタさんはそのまま道を塞ぐようにど真ん中にバギーを止めたわ。
軍が来たら食い止めるつもりね。
カナタさんこそ気をつけてね。
「メル、行こう」
「ええ。セットリストは?」
「アレをガーン、てやって、2曲目はズダダダ、でどう?」
「ふふ。全然分からないわ」
「と、とにかく2曲が限界でしょ?」
「そうね。できるだけオーディエンスを危険に晒したくないわ」
指定のポイントが近づくにつれ、わたしたちはトゥーストラップで固定されたべダルの回転をゆるやかにする。最後はチキチキチキ、とチェーンの音だけにして静かに自転車を路面に倒したのよ。
「いるのかな?」
ロックがつぶやくのを聴きながらアンプをズシャ、と射的場の赤土の上に置いた。次に重いシンセドラムをセットした。生ドラムにしたかったけれど、どう考えても自転車での運搬は無理よね。
どこがステージでどちらが前かも分からないから、5人で背中合わせに立って外へ向かって円陣を組んだ。
「ワン・ツー・さん、はい!」
スネア一撃、ロックの高速リフがかき鳴らされる。
さっきロックが、「ガーン」って言ってた曲。
瞬間、
どおっ、て空気がどよめいたわ。
防弾遮蔽シートをめくって何百人、ていう人が、わーっ、て突然現れた。
カセが可憐な表情で、『みんな、おいでっ!』という風に両手を come on してオーディエンスを煽ってる。ネマロがくるん、とターンしながらロックばりの高速打鍵を見せてる。
イサキがスネアをマシン・ガンのように連打して、全パートの爆音と、そしてわたしの第一声を放つの!
・・・・・・・・・ああ。幸せよ!
メンバーのみんなはTシャツ・ジーンズのラフないでたちだけど、わたしはいつもの銀髪ロング、白のワンピース。
でも、やるわよ!
かぶっていた白地に青色リボンのソフトハットをフリスビーのようにオーディエンスに投げ入れる!
そのままごく速くターンすると、遅れてわたしの銀髪ロングが回転する。
汗すらわたしの演出よ!
額から流れる汗を、わたしは頭を振ってキラキラと散りばめたわ。
今朝ドローンの無人爆撃機が海の向こうの見知らぬ街に向かって飛び立って行ったその空から降り注ぐ銀色の眩しい陽光に直射されてるのよ。
わたしの肌は、日焼けなんかしない。
だって、その強い光の矢は、透明なわたしの肌を音速以上のスピードですり抜けるから。
そしてね。
わたしは、まだ誰にも触れさせたことのないこの唇を、マイクにガシガシぶつけて、天に突き抜けるようなオクターブで叫ぶのよ。
これでもロックじゃないなんて、言わせないわ!
「みんな、もっと、もっとよっ!」
わたしは簡単にオーディエンスを許さない。
まだ、行ける。
まだ、出せる。
もっともっと、叫んで!
全部、解放するのよっ!
「撤収! 撤収よーっ!!」
怒鳴りながらカナタさんがアクセルを踏み抜かすような勢いで驀進してくるわ。
そのバギーの上を、シュルシュルと音を立てて催涙弾が落ちてくる。
あら。このスモークも、なかなかいいわね。
「みんな、またね!」
わたしはそう叫んでクロスバイクにまたがったの。
そして、全力でペダルを回転させる。
次の会場はもっと盛り上げるわよ!
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