メリーの優越感 赤毛の話
「男だからって知ってはいけないって訳じゃないだろ。実際最初のうちは楽しそうに話してくれたじゃないか」
アマディは唇をとがらせた。スラプーに一つしかない学校では十六歳までの男女を同じ教室で授業していたが、男子たちが集められ剣術をやらされている間に、女子たちは女にしか操ることのできない魔術を習っていた。散々尻餅をつかされて疲れ切っている自分を取り囲んで、くすくすと笑いさざめく女子たちから、今日は何を習ったのかを自慢されてきたことを、アマディは昨日のことのように思い出すことができた。家の戸締まりをいっぺんにする魔術、食べ物が悪くならないようにする魔術、スラプーで教えられるのはそういった生活に密着する魔術ばかりで、時間と手間さえかければ男だってできるものばかりだ。それでもしたり顔でやられると腹が立つ。
アマディにはできないでしょ?だって男の子だもの。
そうやって得意げにやってみせるのは実のところ、アマディの気を引きたくてやっていることに、気づくのはだいぶ先のことだったが。
家で母親が人目に付かないようにやっていることはこれなのか、と合点がいく一方で、ここまであけすけに話題にされることを今まで隠されていたことに疑問を禁じ得ない。
しかしある日突然その自慢話を聞くことはなくなった。誰一人として、男の子にその授業の内容を話すことはなくなってしまった。アマディは異常に感じた。もちろんそんな風に考えているのはアマディ一人だけで、あとの男の子たちは我関せずといった感じだったが。
「エジリア先生がはしたないって。男の子に魔術の話をしちゃいけないって言われたのよ」
「教える前に言わないか?男子に話すなってことくらい?変だよ、先生なのに」
「先生のことを悪く言わないで」
ぴしゃりとメリカンドが言葉を跳ね返す。
メリカンドがエジリア先生という30代の女教師を慕っていることくらい、アマディにもわかっていた。
わかっていた。だからこそそこを突いたのだ。
「だってさ、馬の前に人参ぶら下げて進ませたのに、次の日には人参なしでただ歩けって言っているようなもんだろう。ずるいや」
「最初は知らなかったもの、話しちゃいけないことだなんて。先生はなんにも悪くないわ」
メリカンドはアマディが引っ張ったせいでずれたとでも言うように、チーフの位置を元に戻した。ピンでしっかりと固定させると、落ち着いた様子で両手をおろす。
「だからってさ、あれだけ自慢されたのに、ある日ぴたっと聞かなくなるなんてね。気にもなるよ」
アマディはメリカンドの隣にもう一度腰をおろす。流れる水は二人の足の裏をくすぐった。
「こんな感じにさ、この小川の水みたいに冷たかった。さわやかで、ひんやりしていて。だからメリーはすごいなって」
「そ、そう?まぁ、そうね。私も結構うまくいったと思うわ」
「皆で一緒に同じ魔術を習うの?そういう魔術って女の子なら誰でもできるもんか?」
「失礼ね、ぜんぜん違うわよ。戸締まりとかはやり方が決まっているから力の弱い子でもできるけど、チーフを冷たくするのはそう簡単じゃないわ」
メリカンドは自分でも気づかない内に鼻の穴を広げて話していた。自分が水の魔術に相性がよさそうだと先生に褒められたこと。魔力が他の子よりも強いと言われたこと。魔力を上手く操れたことで、皆の前にでてお手本になったこと。そしてこのチーフを冷やす魔術は自分にしか成功しなかったことを。
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