日差し

金鉄宰相

第1話

 男には13人の友人がいた。

 かつて戦場でともに駆け抜けあい、散っていった友人たちの墓は、祖国で最も高い山の見通しの良い広場に並んでいる。

 男は友人たちとの思い出をなぞるように俯瞰していた。


 今から40年前、わが国と隣国の間で2年にわたる戦争が発生した。

 一人目の友人は幼馴染。彼は勇敢な男だった。

 共に軍に入隊した二人は奇遇か、同じ隊に配属させられた。

 ある日、彼はとある戦場でこう言った。

「仲間の死を弔うことはこの戦争が終わるまでは許されない。だって、これが終わるまで皆ともに戦おうと誓ったのだから」

 彼の言う通り、男は戦いが終わるまで弔わなかった。ずっと胸にみんなの顔を、声を刻み続けた。彼が戦死してからも。


 二人目、三人目の友人は遊撃手だった。

 彼らは活発で好奇心が強かった。いつも二人で行動し、多くの戦果を挙げてきた。

 彼らは男に多くのものを与えた。酒、食料、金…はたまた話題までを与えた。

「いくら俺たちが赤髪そばかすの野郎だからってんで、ほかの隊の奴らにゃ負けるわけいかねえ。特にB隊のいけすかねえ金髪副長とかな」

「俺たちは酒癖が悪いんだ、下手な戦果を出した日にゃあB隊の奴らをボコボコにしちまうかもな」

 彼らは翌日、B隊の支援に派遣され、そこで数多くの人の血を流しながら、また自分たちも血の海に沈んでいったという。


 四人目は副隊長だった。

 冷静沈着、しかし決して悲観しない男だった。

 男とはあまり言葉を交わさなかったが、しかしながらお互い認め合い、信頼していた。

 ある日、男から一枚の写真を渡された。

「これは私の家族だ。真ん中にいるのが私。その隣にいるのが妻、反対には祖母…」

 彼は静かに、ゆっくりと語った。翌日、彼は無謀な特攻作戦により敵味方ともども果てた。


 五人目は背の小さい男だった。

 気弱で、階級も低い。しかし人一倍心優しい青年だった。

 戦争終盤、男の小隊は敵軍を洞窟まで追い詰め、ついにとあるグループを籠城させることに成功した。男の隊は攻め込み、また、敵軍も資材が尽きるまで抗った。

 最後の日、敵軍は降伏を申し込んできた。男の上司は殲滅せよと指示した。

 皆が銃を構えたその時、敵軍のある兵士が男の前に出てきて跪いて言った。

「殺す前に一日だけ待ってくれ。今日は娘の誕生日なのだ。許してくれ、頼む、許せ」

 男は困惑した。しかし友人は敵を信じた。

「今日一日とは言わず、あなたたちを捕虜としてしまえば、殺すことはありません。しかし、そこには何があるか私にもわかりません。もしかしたら死ぬよりつらい労働が待っているかもしれない。拷問を受けるかもしれない。それでも娘を想う気持ちはありますか。どうあっても国へ帰ろうと想い続けることはできますか」

 友人の問いに、兵士たちは頷いた。

 男はそれを見て確信した。彼らはもう戦うことはできない。彼らを国へ帰してやらなければならない。

 すぐに上司へ報告し、輸送車の手配をした。その晩、皆で兵士の娘の誕生日を祝った。

 翌日、輸送車が到着し、友人と敵軍の残党8人が乗り込んだ。娘の誕生日祝いをした兵士は男に言った。

「恩に着る。あなたは我々の大切な友人だ。このことはこの戦争が終わった後数百年数千年に至るまで、わが国全体で語り継がねばならない。」


 その日の晩、輸送車は爆撃に巻き込まれ、全員亡くなったとの通知が男のもとに届いた。

 男は泣くことも出来なかった。

 その後、事態は急速に進展し、一か月後に隣国は敗北を認め条約を結ぶに至った。

 男は責任を問われ目を潰された。彼の下した決断が危うく敵軍のスパイを味方に送り込むことになりかねなかったと軍部は判断したのだった。

 こうして彼の軍人人生は終わった。


 男には13人の友人がいた。

 かつて戦場でともに駆け抜けあい、散っていった友人たちの墓は、祖国で最も高い山の見通しの良い広場に並んでいる。

 男は友人たちとの思い出をなぞるように俯瞰していた。

 空が晴れているのか曇っているのかはわからないけど、彼の背中はほのかに暖かかった。

 男は碑石に刻まれた点字を読み終えると静かに涙し、立ち上がり、隣に立っていた妻に支えられながら家族の待つ家に帰った。


 三年後、男は13人の家族に囲まれながら息を引き取ったという。

 彼の墓は今でも祖国で最も高い山の見通しの良い広場に並んでいる。

 その広場はからは、ふもとにある大きな都市の夜景と、上空を飛んで行くたくさんの飛行機がよく見えるという。

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日差し 金鉄宰相 @Kind_Kings

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