第6話 いつもと変わらない朝



 俺は、ちょうど音を立てたばかりのトースターの所に行って、香ばしいきつね色になったパンをつまんで食卓に着いた。


 母は食器を片付けてから、いつも昼食を食べる。

 一足早く手を合わせて、俺はできたての目玉焼きとパンの栄養摂取にとりかかった。


 いつもと同じご飯を無言で食っていると、キッチンで作業している母が話しかけて来た。


「いつも起こすの大変なのよー。でも、今日は楽で良かったわー。良いことありそう。未来ったら、ここのところずっと夜眠るのが遅かったから、心配だったものー」

「一日くらいで大げさな。夜眠れないのは宿題が増えたからだ」

「あらあら、新学期が始まったばかりなのに大変ねー」


 のんびりおっとりとした口調でそんなあたりさわりのない話を続ける俺の母親に、適当に相槌を打っておく。


 茉莉とほんの少しだけ似た雰囲気を持つ俺の母親は、以前はもう少ししっかりした話し方をしていたのだが、茉莉に影響されてなのか、それとも歳を経たせいなのか、子供の頃と比べれば大分雰囲気が柔らかくなってきている。


「もうちょっとで高校三年生ねー。未来は進学するから良いけど、就職する子達は説明会とかに行かなくちゃいけないんでしょうー? 学校休んじゃうと授業が分からなくなっちゃうわねぇ」

「受験勉強だって大変だろ。ただでさえ地元の学校が少ないんだから、ちゃんと勉強しとかないと一年後に弾かれる」

「あらあら」


 俺の住んでる町にある学校は、きちんと数えられるほどの数がない。

 なので、地元の人間はほとんど一か所の学校に集中してしまう。

 学力が無くて弾かれた奴は他の町まで通いにいかなければならなくて、とても面倒だった。


 そんな風にいつものように雑談をしながら昼食を食べる光景は、もう何度も繰り返されてきたもので、特別珍しいものではない。

 

 だが、そんなこ揺るぎもしなさそうなものが、いつの間にか変わっていってしまうという事もあるのだと、俺は知っていた。


 行儀が悪いが、朝ごはんを食べながら携帯を手にしてメールを打った。


『おはようございます。先輩、今日も基地には来れませんか?』


 あて先は、ここ一か月ほど、ずっと基地へ顔を出していない桐谷先輩へ、だ。

 返信はすぐに来た。


『ああ、おはよう。その件だが、すまない。部活で色々やらなければならない事が増えているので、当分顔を出す事は難しそうだ』


 桐谷先輩らしい内容と言葉遣いだった。

 円はこまめに基地に来て掃除だの何だといっているのだが、なぜか桐谷先輩は最近こなくなってしまったのだ。

 来たとしても諸事情により基地内の雰囲気が良くないというのもあるが、先輩にはそれとはまた別の問題があるようだった。


 メールにある通り、忙しいというのもあるだろうが、もっと別の理由があって先輩は基地を避けている様なのだ。


 ため息をつきながら肘をついたら母親に注意された。


「未来ー、お行儀が悪いわよ」

「分かってる」


 居心地が悪くならないうちに、さっさと携帯をしまって、朝ごはんの残りを食べてしまう事にした。


 あともう少し学校に通ったら、もう高校二年の学生生活も終わりだ。

 実感なんてまだわかないが、今のまま社会人になったら皆と離ればなれになってしまうんだろうか。


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